ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第72回「200回配信!グループホームについて」

2014年11月 4日 22:30

前身の番組から200回配信となりました。今回はグループホームについてお話しています。


■高齢者に手厚く、障害者に冷たい国

―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

今回はグループホームについてお話したいと思いますが、その前にお知らせがあります。実はこの番組、『介護事業の知的創造コンサルティング』というタイトルのときから数えて、今回で200回目の配信になるのです。週1回配信ですから4年を超えて続けてきたことになります。今では、多い月には40万人近くの方にダウンロードしてもらっているものですから本当にありがたいものです。

さて、本題です。平成26年の8月24日、私が代表理事を務めるNPO法人グッドシニアライフのグループホームで夏祭りがありました。高齢者を預けっぱなしにして身内がほとんど訪れない施設もありますが、当グループホームでは毎年 9割以上のご家族が夏祭りに参加してくれます。今年は18人全員のご家族が参加してくれました。

利用者さんの中には、曾孫さんも含め 7人の親族に囲まれた方がいらっしゃいました。また、お昼にスタッフも交え総勢 70名の方が、それぞれの部屋や、リビングで食事をとる姿はとても微笑ましいものでした。それとともに、それだけ大事な方をお預かりしている"責任"を、強く感じたものです。

会が終わり、帰宅される時は、皆さんの複雑な心境が伝わってきます。言葉には出しませんが、少し寂しそうな入居者さん。後ろ髪を引かれる思いで、帰られるご家族の方々。誰もが、本当は自宅で看たいのですが、認知症の程度によっては難しいのが現状です。認知症の入居者さんも、若い方々へ負担をかけることを望んではいません。ぜひ皆さんに知ってほしいのですが、昔のように、誰かが人生を犠牲にして、介護をする時代ではありません。皆が知恵を出し合い、社会で介護を支えていく時代なのです。

―介護する方、される方、最近とても増えてきていますね

そのとおりです。しかし、これだけ人口が減少していくなかで、働き手が介護にとられていくというのはもったいないことだと感じています。この国が成り立たなくなってしまいますので、介護は社会全体で支えていくべきだと思います。

話は戻りますが、夏祭り当日は日曜日にも関わらず、民生委員、区長、市の担当者の方々にも参加していただけました。忙しい経営者仲間とともに運営しているため、NPO法人の設立当初は不手際も多かったのですが、開設して10年を迎え、『わいわい(和居和居)』、『がやがや(我家我家)』という名前の通りの、とても良い施設になったと思います。これも、利用者さま、ご家族、地域の方々のおかげです。我々にできることは、ご家族に入居を後悔させないことです。今後も、「預けて良かった」と言ってもらえる運営を目指したいと思っています。

ところでグループホームでは、毎日いろいろなことが起こります。女性入居者さんが、室内で放尿したり、ときには尿が便になったりします。自分の部屋ならまだしも、他人の部屋に入っての放尿もあるから困ったものです。

そばで聞いていると会話になっていなくても、入居者さん同士は、それなりにコミュニケーションが取れているようです。「今日はいい天気だね」「そうね、お腹がすいたね」という具合です。ちょっとおかしく思えますが、当人同士はお構いなしです。入居者さん同士の関係性もさまざまで、喧嘩もあれば、時にはいじめもあります。逆に、姉妹のように仲良く1日中べったりの方がいたり、お互いに恋愛感情を持つ男女もいたりします。

このように認知症が進行した方をグループホームに入居させるときには、ご家族は相当な覚悟をして来られます。しかし、入居は悪いことばかりではありません。グループホームの基本は残存機能を生かすことで症状を改善させることです。グループホームでは日常の挨拶だけでも、自宅の何倍もの人と交わしますから刺激になります。掃除、洗濯、料理もできる方には手伝ってもらいます。

多くの入居者さんは、少しの援助があれば、いろいろな手伝いができるものです。しかし自宅では、手伝ってもらうと、かえって時間と手間がかかるためほとんど家事にかかわることはできません。そういう方に、入居して手伝いをしてもらうと、生き生きとした良い表情をされます。やはり、人は幾つになっても誰かの役に立つことが喜びなのでしょう。

問題点もあります。多くの介護施設では、認知症患者さん達に接することに「慣れ」が生じてきて、若い介護者が、人生の先輩である入居者さんに対して、失礼な接し方をしてしまうことがあるのです。そのため、当グループでは、若いころの写真を部屋に飾ってもらうようにしています。もちろん入居者さんのためでもあるのですが、それ以上にスタッフに好影響をもたらします。何気ない写真が、「今は認知症だけど、この人はもともと普通に日常生活を営んでいたのだ」という当たり前のことを思い出させてくれるのです。そうするとスタッフが自然と敬意を表するようになります。

今回紹介したグループホームは、病気や障害などで生活に困難を抱えた人達が専門スタッフ等の援助を受けながら、小人数、一般の住宅で生活する社会的介護の形態です。最近では認知症高齢者グループホームを指すことが多いのですが、本来は若年の障害者の方も対象となります。

また2006年4月より障害者自立支援法に基づく共同生活援助(グループホーム)と共同生活介護(ケアホーム)の二種類がありましたが、今後、両者は統一される方向のようです。

以前に比べ、障害者の方々の平均寿命も延びています。そのため、以前は障害者の両親が介護の中心でしたが、両親の高齢化の問題が出てきています。実際に当院でも、30~50歳代の障害者の方からの訪問診療の依頼も増えてきています。中には 48歳の私と同じ年の方も見えます。当然、介護するご両親もかなりの高齢です。そうすると、いずれは施設という要望が出てきます。

最近、そんな親御さんから障害者向け施設のアドバイスを求められました。いろいろ調べてみて、 "この国は、老人には過剰にまで手厚いのですが、障害者にはとても冷たい"ことに気が付きました。

この問題を取り上げようとしても、新聞も雑誌も本も、売れないと分かるため積極的には取り上げてくれません。政治家も票への影響が少ないため、熱心ではありません。

そのうえ、国から支払われる報酬も、高齢者向けのグループホームに比べ、障害者向け施設は1/2から1/3の金額です。これでは、とてもビジネスとしては成立しません。普及しないのも当たり前です。現在は、障害をもっている方のご両親などが犠牲になっていることが多いようです。

仮に自分の周囲に障害の方がいなくても、お孫さんに出る可能性もあります。もしくは、交通事故で障害を持つこともあるのです。全く無関係とは思わず、それぞれに関心を持ってもらいたいものです。

実は、私も障害者向けの施設の新規開発を始めています。半年、一年経った頃には成果がお話できるのではないでしょうか。障害のある方やご家族だけが犠牲になるのではない、そんな施設を作りたいと思います。(了)