ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第26回「ケアリングデザイン」

2013年12月10日 22:30

暮らしの豊かさを実現する、一般社団法人「ケアリングデザイン」をご紹介します。


■美しいデザインが介護を変える
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

平成25年6月6日にインテリアデザイナー、建築家、コピーライター、看護婦、介護職の方々と一緒に一般社団法人ケアリングデザインを設立しました。この法人ではデザイン性・機能性ともに高く、使い手の幸せに貢献する道具や空間の美しい調和を「ケアリングデザイン」と称しました。このケアリングデザインによって人々の豊かな暮らしを実現することを目的としています。

平成12年4月に介護保険が導入されたとき、介護の現場ではデザインどころではありませんでした。手すり、杖、車いす、ベッド、住宅改修、どれも商品を提供するだけで精一杯だったのです。しかし介護保険施行から14年経ち、団塊の世代も介護を必要とするにつれデザインへの要望も高くなっています。こんな時代の要望を理事のコピーライター岩崎俊一さんは「ケアは、美しい道具をさがしていた」と言い表しました。とても良いコピーだと思いませんか? 

もちろん私も一般社団法人ケアリングデザインに監事として参加しています。私は毎日訪問診療で多くの家を回っていますが、介護・療養されている方たちの環境の違いには驚かされます。そんな経験から3年ほど前に名古屋で「在宅医療から見た住宅」というテーマで講演をさせていただいたことがありました。そのとき偶然にも社団法人の代表理事を務める小野由記子さんが参加されていたのです。その後も大阪で日本インテリアデザイナー協会のフォーラムでお話しさせていただき、こうしたご縁から今回の社団法人設立に参加することになりました。

最初のイベントとして、平成25年10月25日から30日まで池袋西武で「ケアリングデザイン展」を開催しました。目玉は58平米のマンションのリノベーションです。みんなで意見を出し合い、そこに住まう人たちの生活を物語仕立てにして具現化しました。

―そのマンションにはどんな人が住んでいる設定なのですか?

65歳を超えた夫婦にしました。ご主人は定年後に糖尿病を発症し、趣味の写真撮影をしながらウオーキングをしています。時には台所にも立つようになりました。奥様はお茶の先生をしていましたが、変形性膝関節症で正座ができず教室を閉めることを考えているという状況です。

そこでまずは膝が悪い奥様のためにいすに座ってお点前ができる道具を提案しました。これなら正座せずに済みますし、熱源は電気なのでマンションでも対応可能です。「膝が悪いわけではないけれど、マンションでお点前をするためにぜひ欲しい」という声が多く聞かれました。奥様が入れたお茶は、表面が畳でできている机でいただきます。これなら今まで通りお茶の教室が続けられます。

ご主人も立つキッチンは、一直線でもL字型でもなく140度の角度をつけました。人間工学的に動線が有効に使える角度だそうです。角度をつけた反対側にはいすに座ってお茶が飲めるスペースもできます。あるお客様がこのキッチンに大変惚れ込まれ、もともと販売する予定はなかったのですがお買い上げいただくことになりました。

―介護ベッドやお風呂にも工夫がこらされているとか

高級ベッドメーカー・シモンズの4モーターのベッドを展示しました。革張りで高いデザイン性を持ちながら、頭、背中、足元、そして全体が動きます。通常介護ベッドはデザイン性に乏しく、デザイン性が高いものは4モーターをはじめとする機能が足りません。デザイン性と機能性を兼ね備えたシモンズのベッドはまさにケアリングデザインそのものです。一時体調を崩されていた理事の岩崎さんも「これこそ私が病院の特別室に欲しかったベッドだ」と絶賛していました。

お風呂はひのき風呂です。湯船と壁の間にスペースが設けられており、介護が必要になったときに対応しやすくなっています。

そして照明は最近発売されたばかりの太陽光に限りなく近いLED照明です。年齢を重ねると明るすぎる照明では疲れてしまいます。このLED照明を使った部屋に入った途端、「とても優しい光ですね」とおっしゃる方も多かったです。

ケアリングデザイン展ではこのような提案を6日間かけて行いました。大勢の方にご来場いただき、私も新しい気付きを得ることができました。

身の回りのもののデザインを考えることは自分の「快・不快」を意識することにつながります。これは認知症予防の観点からも脳の扁桃核を刺激するので効果的だと思われます。これから私も一般社団法人ケアリングデザインのさらなる発展のために尽力し、自分自身の認知症予防にもつなげていきたいと思っています。(了)