家業から事業へ脱皮した際の、当社の下準備をご紹介します。
■より多くの人を幸せにするために
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?
「家業から事業経営へ脱皮する方法」をご紹介します。まずは家業と事業経営の違いを解説しましょう。
家業とは文字通り家のための業(なりわい)であり、一家の生計を立てることが主な目的です。そのため一代限りで終わることもしばしばです(いわゆる老舗は何代にもわたって続いている家業ですが、今回は例外とします)。
それに対して事業経営は時を「経」て永遠に「営」みを続けていくこと(=経営)が目的です。家業と違って事業の継続が前提となるため、お客様満足の追求はもちろん大勢の従業員が構成する組織づくりや社会との関わりを考える必要があります。公正な事業承継も重要な課題です。
さて平成25年6月16日に、ブレイングループの経営方針発表会および行動目標発表会がありました。経営者の私が全社員の前で今後の方針を述べる年に一度の機会でもあります。
そして今回のメインはブレイングループの「家業から事業経営への脱皮」を表明すること。7月1日付で、グループ会社の一つで介護事業を営む株式会社ザイタックの現取締役小森健市が代表取締役に昇格すると発表しました。彼は長谷川家とは血縁関係のない人です。
長谷川家の家業としてスタートした株式会社ザイタックですが、今や従業員が100人を超え事業経営へと脱皮する必要がありました。これによってより多くの人材が経営に関与することが可能となります。
―長谷川先生のように血縁によらない人を後継者にしたいと考えている経営者は多いのでは?
その通りです。「優秀な後継者・パートナーがいない」という嘆きもよく耳にします。しかし優秀な後継者やパートナーは突然現れるわけではありません。そこで当グループが血縁によらない後継者を迎えるためにどんな準備をしてきたかご紹介しましょう。
①後継者・パートナーに仕事を任せる
「家業から事業経営に脱皮したい」と口にしておきながら、肝心の後継者・パートナーに仕事を任せていない経営者は結構います。もしくは仕事は任せても法人の通帳・現金は決して任せないというパターンです。
経営者には「まだそこまで信頼できない」という思いがあるのでしょうが、そんなふうに手をこまねいているよりは「誰も不正を働くことができない仕組み」を作るべきです。例えば当グループでは、経営者である私でも法人の印鑑を勝手に持ち出すことはできません。
そして後継者・パートナーの信頼を得るためにも、経営者が法人のお金でお酒を飲んだり公私混同したりすることは絶対に許されません。残念ながらこんなことすらわかっていない人も多いのです。
②将来、法人を上場させるかどうかを決定する
もし上場を目指すのであれば、後継者・パートナーにも株式を所有してもらう必要があります。当グループの場合は介護事業という性格上、上場は目指さないことにしました。そのため別の持ち株会社が全株式を保有することで株式の分散を防いでいます。
③法人が「無借金」であること
法人に多額の借金があると代表取締役は金融機関から個人保証を求められます。そんな法人の代表取締役など、一体誰が引き受けてくれるでしょうか。
そこで当グループは会社分割により、借金と不動産を別に移転することで無借金にしました。もちろんこれはすぐにできることではありません。数年かけて法人を無借金にする計画を立てる必要があります。
また天災等が発生して急きょ現金が必要になる可能性もあります。そのような事態に備え、当グループは1億円以上の「当座貸越枠」を無担保・無保証で確保しました。三つの銀行をうまく競わせたことが功を奏したと思います。やや話がそれますが、これからの時代は付き合う銀行を一つにしないことも大事です。
―これらを実行するにあたって、苦労も多かったのでは?
確かに煩雑な手続きをしなければならず、苦労したことは事実です。しかし家業から事業経営に脱皮するためには絶対に必要ですから貫徹しました。
血縁によらない人に社長就任をお願いするなど、14年前の創業当時は考えられないことです。経営方針発表会の最後に新社長があいさつしている姿を見たときはまさに感無量でした。
ところでみなさんは家業と事業の違いを数式で表すと、
家業......12+12+12=3
事業......(1+1+1)2=9
になるという説をご存じですか?
いつまでも家業にこだわるのではなく、ある程度の規模になったら事業経営に転換したほうが組織は発展していくはずです。
なかなか行動に移せない経営者が多いようですが、断固とした決意があればできないことではありません。私の話を聞いて自分もチャレンジしようと考える人が出てくることを期待します。(了)