ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第121回「介護事業所の適正規模とは」

2013年4月 9日 22:30

売り上げ規模が10億まで、従業員は100人を少し超えた程度が適正と考えます。


■大企業が有利とは限らない介護事業
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

「介護事業所の適正規模とは」をテーマにお話しします。介護事業を行っている事業所や法人の規模は、株式上場している大企業から家族だけで運営しているところまであり多彩です。それらの事業所がすべて「介護保険」という同じ土俵で戦っていることは不思議でもあります。

―やはり大企業が有利なのですか

いいえ、そうとは限りません。例えば電化製品メーカーなどのビジネスはものを作れば作るほど単価が安くなります。スーパーなどの小売業も仕入れ量が増えるほどコストが下がります。これらの業種は基本的に規模が大きくなるほど利益率が高くなります。

ところが介護事業は規模が大きくなっても、必要な人員・定員は介護保険によって決められています。たとえデイサービスを100件運営しようと、それぞれに必要な人員・定員は変わりません。

もし100件ものデイサービスを束ねようとするなら、それだけ間接人員が必要になります。間接人員は売り上げや利益に直接貢献しないため、増加すると利益率が低下してしまいます。

さらにデイサービスの件数が多いと売り上げが良いところと悪いところが出てきて、黒字施設が赤字施設を補う「経営の雑さ」も生まれる恐れがあります。すると大企業でも利益率が低下し職員の給与ベースが低くなることもあるのです。

―それでは、規模が小さいほうがいいのでしょうか?

規模が小さいほうがきめ細やかなサービスを提供できるという面はあります。しかし事業所を自由に選択できない地域ではサービスが悪くても放置される傾向があります。また極めて家族的な経営のため、キャリアアップを目指すスタッフが不満を抱いたり、やる気を維持できなかったりする懸念もあります。

前回「グループホームの耐火・耐震基準」でもお話ししましたが、介護事業は心身にハンディキャップのある人たちにサービスを提供するためのもの。健常者を対象とする場合よりコストがかかります。

これは介護事業を運営する上での義務であり、この義務が果たせないほど資金力低いようでは介護事業を運営する資格はありません。

■「利益の絶対値」が最も高いところ
―長谷川先生は介護事業所の適正な規模はどの程度だとお考えですか

「売り上げ規模が10億円まで」がいいと思います。介護事業は「売り上げ=粗利」ですから、粗利が10億円と考えていただいても結構です。従業員は非常勤を常勤換算してだいたい100人を少し超えた程度になります。

みなさんは「経営には売り上げ10億円の壁がある」と聞いたことはありませんか? 多くの経営者はその壁を突破するべく努力しているのです。

しかし10億円の壁を超えるためには間接人員を増やさなければならず、介護事業にとって大きなデメリット。だから「限りなく10億円に近い地点=利益の絶対値が最も高いところ」で止めるのです。もしさらに大きくしたいと思うのなら、法人を別に設立したほうが効率的です。ただし管理部は共有しても構いません。

―従業員が100人を超える程度の組織になったときのメリットは何ですか?

人事異動ができることです。当グループも5、6年前からデイサービスなどの管理者も含めて人事異動をしており、効果を実感しています。例えば上司と多少折り合いが悪くても、異動があると思えば部下も我慢してくれます。

管理者も普段から資料を整理したり業務を仕組化したりして、いつでも仕事を引き継げるように準備するようになりました。私が口酸っぱく言うよりも効果的です(笑)

当グループはデイサービス内の人事異動から始まり、今ではクリニックとデイサービス、デイサービスから訪問看護ステーションへの異動などバリエーションが増えています。

人事異動のおかげで自分の部署の都合だけを考える「セクショナリズム」ではなく、グループ全体を考える企業風土が根付いてきていると思います。

今回のまとめとしては

・介護事業は上場するほど大きくしないこと
・人事異動ができる大きさ(売り上げ10億円・職員100名)を目指すこと

この2点をおすすめします。(了)