ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第114回「介護施設や高齢者住宅の質について」

2013年2月19日 22:30

有料老人ホーム、グループホームやサービス付き高齢者住宅の運営会社でお勧めなのは、社会福祉法人や医療法人です。


■民間施設は介護度が低いうちだけ
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

前回は民間が主導する有料老人ホームやグループホーム、サービス付き高齢者住宅に入居する際の費用についてお話ししました。今回は施設の「質」についてです。

みなさんの周りでもこうした民間施設が乱立していることでしょう。とはいえこれまで国が整備してきた特別養護老人ホーム(以下特養)や老人保健施設(以下老健)との違いはほとんどわからないと思います。実際に働いている職員ですら、自分の職場の正式名称を知らないぐらいですから......(笑)

―民間施設と国の施設の大きな違いは何ですか?

民間が整備している有料老人ホームやグループホーム、サービス付き高齢者住宅が想定している介護度は1~3。これ以上介護度が高い人は入所できません。介護度4~5の場合は国の特養や老健が受け入れることになっています。

ところが今は、介護度が低くても費用が抑えられる特養や老健に希望者が殺到しています。反対に重症化しているのに民間施設に留まっている人もいます。

―介護度が低い人しか入れないのなら、民間施設は「終のすみか」になりませんね

その通りです。せっかく民間施設に入っても、介護度が高くなると他の施設に移るよう求められることもあります。

一番いい方法は、民間施設に入っても特養や老健の申し込みを一緒にしておくこと。そうすれば介護度が高くなったときに民間施設から特養や老健に移ることができます。費用負担も少し軽くなるのでご家族は楽になるはずです。

―このような方法や知識はケアマネージャーから教えてもらえるのでしょうか?

いいえ、違います。ケアマネージャーはあくまで在宅生活を維持するためのケアプランを作成するのが仕事。施設に入った人はケアマネージャーの受け持ちではないのです。

そのため有益な情報を得ることができず、毎月高額な費用を払い続けて財産を失ってしまう人が後を絶ちません。私も外来を訪れるご家族によくアドバイスしていますが、この現状に心を痛めています。

―50万人ほど死者が急増するという2030年の「多死社会」。国はその増加分を民間施設で看取るべきだと考えています

最近は異業種からの進出がめざましいのですが、その多くは明確な経営理念がなく「どんな利用者さんを診るのか」あるいは「どんな利用者さんを診られるのか」があいまいです。居室の設計にも工夫や理念が感じられません。「ひたすら安く、部屋数は多く」と考えているかのようです。

有料老人ホームやグループホーム、サービス付き高齢者住宅へ入所を検討する場合、まず運営会社を吟味してください。

■多死社会の後も生き残る施設とは
―運営会社を選ぶめやすはありますか?

おすすめは社会福祉法人や医療法人です。当然ながら医療・介護業界を熟知しており、ひどい運営をすることはまずありません。

一方、異業種から進出した株式会社は従来の発想にとらわれない運営ができます。しかし利益を追求するだけの劣悪な施設もあり、注意が必要です。

ちなみに当グループが医療機関として協力する岐阜県多治見市の住宅型有料老人ホーム「住ま居るメディカ」は素晴らしい理念に基づいた施設です。

経営者は30代の男性看護師と男性介護士の2人。彼らはもともと認知症患者さんを対象とするグループホーム「住ま居る」を運営していました。

そのグループホームも理想的な施設でしたが、入所年数の長い入居者さんが重症化することは避けられません。そこで平成24年8月から住宅型有料老人ホーム「住ま居るメディカ」を隣接地にオープンしたのです。

この施設は「本当に困っている重介護者さんを診る」という理念に基づき、グループホームで重症化した方はもちろん、病院から移ってきた医療度の高い方も受け入れています。ご家族の希望があれば看取りも行っています。

他にも気管切開、胃ろう、尿バルーン、透析なども引き受けており、もはや医療機関にも引けを取らないレベルだと言えるでしょう。

―非常に頼もしい方たちですね

彼らの姿勢には私たちも身が引き締まる思いです。まさにこれが「最期の看取りができる住宅型有料老人ホーム」ではないでしょうか。やはり経営者の人柄と理念を理解したうえで施設を選択することが大事です。

ところで団塊の世代が亡くなる2030年の多死社会の後は高齢者人口が減少し、従来の特養と老健で十分対応できるようになります。

コストはこの両者がはるかに安いのですから、現在乱立している有料老人ホームやグループホーム、サービス付き高齢者住宅は不要となります。先ほどの「住ま居るメディカ」のような高い理念の施設以外は生き残ることが難しいでしょう。

―これらの施設は地主が「建て貸し」をしているケースが多いとか

施設がはやらなくなったら、事業者は撤退するだけです。そのとき地主さんは建物をどうするつもりでしょうか。

建築業者から「介護施設を建てませんか」と持ちかけられたとき、2030年以降も考慮しておかないと悲惨なことになりかねません。もしくはいつまでも地域の人から必要とされる「質」の高い介護施設であるべきです。地主さん、建築業者にだまされていませんか?(了)