「本当は当たって欲しくなかったが、殆ど当たっている 」と著書が語る予想小説。一読をおすすめします。
15年前に著された予言の書!?
―今回はどんな本を紹介していただけるのでしょうか?
『平成30年』(堺屋太一著/朝日新聞社)です。平成9年から10年にかけて朝日新聞に連載された小説で、15年ほど前の作品になります。
内容は来たる平成30年を予測して書かれたものです。堺屋さんは以前「本当は私がこの小説で書いたことは当たってほしくなかった。しかし平成20年の時点ではほとんど当たっている」という主旨のコメントをしています。
―本書のどのような予測が的中しているのでしょうか?
まずは子どもの数の低下です。現在、団塊の世代250万人に対して新生児は100万人を割っています。もちろん晩婚化も言い当てています。
他にもインターネットで注文して希望時刻に商品が届くネットコンビニの登場、住宅新築件数が年間160万戸から100万戸以下へ減少、首都機能移転が実現できず東京へ一極集中していることなどがあります。
―雇用や生活面についてはどうでしょうか
高齢者の大口就職先としてタクシーの運転手が挙げられています。実際に個人事業主として歩合制で契約している人が多く、みなさんもタクシーに乗ると若いドライバーがほとんどいないことに気付くのではないでしょうか。
若者が少ないことは給与水準の低さも影響しているのですが、年金受給者にとってもなかなかいい仕事なのです。タクシーの運転手としては年間200万円前後しか稼げなくても、同程度の年金があれば生活はできるからです。
またニュータウンのマンションが老朽化し住民が減る問題、家庭で調理をしなくなりテイクアウトが中心になるとも言っています。ちなみにテイクアウトを利用するのは60代前後の女性が最も多いです。なぜなら子どもが独立し、夫婦二人だけになると家庭でつくった料理を持て余すようになるからです。私の両親を見ていてもそうですね(笑)そのため買ったほうが効率的なのです。それから貯蓄率の低下も言い当てています。
さらに「レアメタル(希少金属)の高騰がすべての引き金になる」と書かれています。そもそも平成10年には「レアメタル」という言葉を知る人はほとんどいなかったのですから、堺屋さんの先進性がよくわかるのではないでしょうか。
―これから的中しそうな予測はありますか?
『平成30年』の社会では消費税が12パーセントで、20パーセントへ移行する議論が行われています。今の状況とかなりペースが酷似していると思います。
また貿易収支は1000億ドル近い赤字になるとしています。もちろん平成10年の時点では「日本が貿易収支で赤字になるはずがない」と思っていた人が大半でした。
ところが平成24年1月、ついに貿易収支が赤字になったのです。このまま平成30年になれば赤字であることが普通になっているかもしれません。
―他にも注目すべき指摘があれば教えてください
・日本経済は資源危機以来の慢性不況
・少子化による非成長、円安による物価上昇
・インフレと不景気が重なって「スタグフレーション」になる
・近郊団地は高齢化、森林の荒廃、農村の過疎化、商店街の空洞化
・観光業は割高で海外旅行に行く人が大幅に減る
・不動産価格が下がっても家賃は変わらず、利回りが第一になる
などです。
さらに驚くべきは1ドル=230円になり、トヨタが中国企業に買収されると書かれていることでしょう。円為替・株価価・国債価格の三つが下がる「三落」も予測しています。
介護事業はこれからどうなる
―介護事業に関する部分はありますか?
介護保険料も当初は一人2500円程度の負担で済みましたが、現在は4000~5000円に上昇しています。『平成30年』では1万5000円になっています。
また医療・介護機関に対する監視が徹底され「不正もなければ親切もない利権業者」になっており、医院の新設や病床の増設を規制する医療減反、生命保険の受取権買い取りが普及すると述べられています。
―長谷川さんが本書を読んで行動に移したアイデアがあれば教えてください
平成12年頃から毎月ドル、ユーロ、金、プラチナを購入しています。特に価格が上昇した金は含み益が大きいと見込まれ、かなりの資産分配ができていると思います。
私はいずれ円安・インフレになると考えてビジネスを展開しています。経営者は目先の情報に踊らされず、長期的な視点を持つことが大事ではないでしょうか。
―『平成30年』というタイトルに込められた意味とは何でしょうか?
堺屋さんによると、「平成30年=明治150年」に当たるそうです。ちなみに明治74年は昭和16年で、太平洋戦争に突入した年でした。堺屋さんは平成30年から私たちが想像もできなかった新しい時代になると提言しているのです。
本書はどんな業種に就いていても参考になるアイデアが満載です。上下巻に分かれて分量が多いのですが、一読の価値ある素晴らしい作品です。(了)