ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第10回「身体介護」

2011年2月15日 20:30
今回は、認知症介護に対する「身体介護」についてお伝えします。


油断できない脳血管障害

―今回は「身体介護」についてお話しいただけますか?


「身体介護」は自分の思う通りに体を動かすことができない状態をいいます。いろいろな形態がありますが、代表的なのは「脳血管障害にともなう片まひ」です。脳血管障害は、脳の血管が詰まった状態や、脳の血管が破れた脳出血などを指します。


頭のある部分の血管が詰まったり破れたりすると、左右どちらかの手足が動かなくなります。例えば左脳で脳出血が起こると右の手足が動かなくなり、右脳で起こると左の手足が動かなくなるという具合です。


どちらの手足であろうとも、自分の思い通りに動かせない状態は大変不自由なものです。ほとんどの方はこの話を聞いても他人事にしか思えないでしょうが、実は50歳を過ぎれば誰にでも起こりうることなのです。脳梗塞や脳出血によって左右どちらかの手足が動かなくなることを「片まひ」といい、身体介護の半分以上を占めています。


―脳血管障害はどのような経緯で発症するのでしょうか? 


一般的に脳血管障害は突然発症します。そのため「右手が動かない!」などの症状が出た時点ですぐ入院が決まります。さらにその後リハビリ専門病院のリハビリを受けます。


発症から6カ月までのリハビリには医療保険を使うことができますが、それ以降は介護保険による対応となります。これは「医療保険はあくまで急性期の治療に対応し、その後は介護保険を適用する」という政策のためです。


しかしながら介護保険を使ったリハビリサービスは、今のところあまり充実していません。地域によってかなりの差があります。6カ月以降もリハビリを受ける人たちに対して重点的にサービスを提供する事業所があればいいのですが、地域によってはサービス自体がない、ということもあります。


社会的ニーズに応えよう

―実際に需要があるにもかかわらず、サービスが充実していないことは残念ですね


経営者の視点を持つと、多大なニーズが潜んでいることがわかると思います。脳血管障害で片まひになった人たちが困っている現状を知り、適切なサービスを提供する。これは事業所に繁栄をもたらすだけではなく、社会全体のニーズにも応えられるチャンスではないでしょうか。


―ところで、医療保険が使える期間内(6カ月)でリハビリが終了するケースはあるのでしょうか?


脳血管障害によるリハビリが6カ月で終わることはまずありません。訓練場所や広いスペースが確保されたリハビリ施設では回復したように思えても、帰宅したとたんに運動機能が落ちることもあります。そのためほとんどの人は6カ月以降もリハビリを続ける必要があります。


―身体介護の要因は、脳血管障害のほかにもあるのでしょうか?


加齢にともなう「廃用症候群」があります。ちょうど宇宙から帰ってきたパイロットのように、両足を動かすことはできても、筋肉が落ちたために歩行が不安定になった状態です。


この場合はしっかりと運動すれば予防と改善が可能ですが、兆候を見逃したり放置したりすると寝たきりになってしまうので注意が必要です。介護サービスに携わる私たちも、患者さんをみすみす寝たきりにしたくはありません。「脳血管障害」と同様に、「廃用症候群」に対しても介護保険を使ったサービスが大切だと思います。(了)