ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第79回「突然死を防ぎましょう!」

2014年12月23日 22:30

交感神経の過剰興奮が突然死の原因。今回は突然死を防ぐためのお話です。


■体のサインをお見逃しなく!
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

今回は「突然死」についてです。人間は、過度にストレスを感じると交感神経が過剰興奮します。そうすると循環器系に負担がかかり、心筋梗塞や脳出血を引き起こすおそれがあります。生命保険会社などのナンバーワン・セールスマンが若くして急死することがあるのは、この交感神経の過剰興奮が原因です。最近では、癌の原因になるさえ言われています。

私も交感神経が過剰興奮するような生活を送っていますが、幸い、突然死しないための"カラータイマー"が内蔵されています。大腸の「憩室」です。大腸憩室とは大腸内壁が外側に袋状にふくらんだもので、成人の場合、10人に1人の割合で見つかります。憩室があるだけでは何の症状もありませんが、炎症した場合には腹痛を引き起こします。私も3年前に憩室炎で入院をしました。それ以降、ストレスが重なると左下腹部がうずきます。交感神経の興奮が、白血球の中でも顆粒球系を刺激する結果です。実は、それが「無理をしてはいけない信号」となっているのですね。もっと身近な例でいくと、ストレスで吹き出物がでることも同じ理由ですから注意が必要です。

――体からのサインを無視してはいけないということですね

そのとおりです。最近では、以前お話した「卒業プレゼン」の準備のために緊張がピークになり、左下腹部に痛みを感じました。そのときには深呼吸を心がけ、食事量も減らし、腸の負担を減らすことで痛みを紛らわせていました。何とか9月20日に卒プレも終了し、23日からは、高校時代の仲間と飛騨高山へ温泉旅行に出かけました。するとすっかり痛みも消失。普段以上のお酒と食事をとっても問題ありませんでした。旧友との楽しいひと時が、一気に交感神経の興奮を鎮めてくれたのです。このように、ストレスがたまるとサインを送って知らせてくれる大腸憩室は、私を突然死から遠ざけてくれる"カラータイマー"なのです。

さて、私の日々の生活は、朝から晩まで仕事に集中して、まさに"交感神経の過剰興奮状態"です。このままでは、突然死にまっしぐらですから、約10年前から健康のために鍼灸院に通っています。お気に入りの貞森中醫鍼灸院の先生は、鍼灸医でありながら、名城大学薬学部を卒業され薬剤師の資格も持っている珍しい先生です。鍼灸の世界ではかなり有名で、遠方(熊本県、長崎県、岡山県、兵庫県、大阪府、滋賀県、奈良県、三重県、岐阜県、静岡県、東京都、宮城県)から来院されている方もいらっしゃるようです。

ちなみに東洋医学の先生の良し悪しは、脈診をしっかり取るか否かで判断できます。その点貞森先生は、しつこいほど脈診を取ります。脈診の結果で、経絡に沿って針治療を行うのです。そのため、人によって、治療する経絡は異なります。また同じ患者さんでも、体調の変化で経絡が変わります。私自身もこの10年間で4回ほど経絡が変わったようです。

貞森先生の治療は、約60分程度かかります。多くの患者さんは熟睡しているようで、寝息やいびきが聞こえてきます。私もほぼ60分間、日常では考えられない深い睡眠を取る事ができます。鍼灸は交感神経を抑制し、副交感神経を亢進させます。そのため良質な睡眠が得られるのです。治療の後半になると、腸がゴロゴロと動く事を感じます。副交感神経の働きで、胃腸の動きも活発になるのです。

治療後の食事はとても美味しく、夜は快眠、翌朝はすっきり快便です。鍼灸で快食・快眠・快便が整えられ1週間の疲れが吹き飛んでしまいます。日常生活が交感神経の過剰興奮状態である方には、突然死予防のためにもおすすめです。

ところで、「私は自律神経失調症と診断されました」とお話になる患者さんが結構いらっしゃいます。実はこの病名には注意が必要です。日本心身医学会では「種々の自律神経系の不定愁訴を有し、しかも臨床検査では器質的病変が認められず、かつ顕著な精神障害のないもの」と暫定的に定義されています。しかし、自律神経失調症という病名は、日本では広く認知されていますがDSMといってアメリカ精神医学会による精神障害の分類では定義されていません。したがって、現在も独立した病気として認めていない医師も多いのです。

疾患名ではなく「神経症やうつ病に付随する各種症状を総称したもの」という見解が、一般的な国際的理解です。本当は、この病気はうつ病、パニック障害、過敏性腸症候群、頚性神経筋症候群や身体表現性障害などが原疾患として認められる場合が多いのです。しかし、原疾患を特定できない内科医が"不定愁訴を納得させる目的でつける"と言う否定的な見解もあるのです。

私は、"自律神経失調症"という言葉が好きではありません。神経内科医として本当に重篤な自律神経障害の患者さんを見ているからです。彼らは、横になって測定した心臓の収縮期血圧180mmHgがあったとしても、起き上がった途端80mmHgにまで下がって気絶することがあります。排尿障害がある場合は、膀胱にバルーンを留置することもあるのです。便秘も下剤ではまったく反応せず定期的な摘便が必要となります。これぐらい重篤な起立性低血圧、排尿障害、便秘こそを本当の「自律神経障害」というのです。

そのような観点からすると"自律神経失調症"というのは、やはり疾患名ではないと考えています。"自律神経失調症"と診断されたときは、もう少し丁寧にほかの原因を調べる必要があるのではないでしょうか。不定愁訴の原因が「交感神経の過剰興奮」だとすれば、ヨガや鍼灸院に通うほうが効果的な場合もあるのです。(了)