ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第78回「山を登る人、山を作る人」

2014年12月16日 22:30

「凡人は山を登り、賢人は山を作る」。分野に関わらず、生き方には2種類あるように思います。


■凡人は山を登り、賢人は山を作る
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

最近、分野に関わらず、生き方には2種類あるように感じています。「山を登る人と、山を作る人」です。どのような業界にも、従来の組織の中で確実に山を登っていく人と、自分で新しい山を作ってしまう人がいます。医療で言えば、大学や大病院といった組織の中で生きている人が「山を登る人」で、組織を作り新しい価値観を生み出している人たちが「山を作る人」です。もちろん、どちらが良くて、どちらが悪いといった単純な話ではありません。しかし従来の組織が、時代の変化についていけない"組織疲労"を起こしていることも事実です。

先日も、勤務医の先生4人と一緒に対談形式の取材を受けました。取材の趣旨は、「専門外の医師がどのように認知症診察をするか?」でした。しかし専門知識の議論になってしまい、結論も出ませんでした。私も何度か話の方向を戻そうとしましたが、結局専門知識の議論に戻ってしまうのです。まるで、患者さんが医師におそるおそる質問したら、一方的に専門的知識を押し付けられ、何も聞けなかったような印象の対談でした。もう少し取材目的に沿った議論するべきなのです。

今回の会議は、現在の医療の問題点の縮図だと思いました。確かに勤務医の方々は一生懸命やっています。しかし、ダイレクトに経営しているわけではないために、「自分達がしていることが、患者さんの、どんな問題を解決できるのか?」という視点が欠けているように思います。だからこそ、これほど医療が進歩しながらも、民間療法が現れ、健康本が盛んに出版されているのです。このことは、患者さんが医療に満足していないことの裏返しであり、医療人は反省する必要があると思われます。

これからの時代は、歴史的に見ると明治維新や第2次世界大戦並みの変化が起こります。そのときは、多くの山は崩壊して、無数の小山がある社会になっていると思われます。ある方の言葉で「 凡人は山を登り、賢人は山を作る」というものがありますが、自分は、新しい山を作る人間でありたいと思っています。

ところで平成25年6月6日、インテリアデザイナー、コピーライター、一級建築士、看護学科教授、介護支援専門員の方々と一緒に一般社団法人ケアリングデザインを設立しました。平成12年4月に介護保険が導入された当時は、デザインどころではありませんでした。杖、車椅子、ベッド、住宅改修どれも、まずは商品を提供することで精一杯でした。しかし、介護保険の施行から15年が経ち、デザインへの要望も高くなっています。そんな状況を理事の一人であるコピーライターの岩崎俊一さんは、"ケアは美しい道具をさがしていた"という言葉で表現されました。そんな、社団法人ケアリングデザインが、平成26年10月1日グッドデザイン賞を受賞したのです。

――グッドデザイン賞は、有名無形を問わないのですよね

そうなのです。「グッドデザイン賞」は、家電やクルマなどの工業製品から、住宅や建築物、各種のサービスやソフトウェア、パブリックリレーションや地域づくりなどのコミュニケーション、ビジネスモデルや研究開発など、有形無形を問わず、人によって生み出されるあらゆるものや活動を対象としています。社団法人ケアリングデザインは、「法人の取り組み」に対して、賞が与えられることになったのです。

そんな社団法人ケアリングデザインは、私が作っている新しい山といえるものです。平成25年10月の「くらしのケアリングデザイン展」は限定開催でしたが、平成26年4月からは西武池袋店での常設展となっています。平成26年10月22日から11月3日の間に開催された「くらしのケアリングデザイン展2014年」にも、たくさんの方に来ていただきました。
さらに私の新しい山といえるのは、医師としてのFPの活動です。認知症専門医であり、ファイナンシャルプランナー(以下FP)である特殊性のため、保険の相談を良く受けます。もちろん、私自身は保険の販売はしませんので、100%相談者の立場に立ったアドバイスをします。

私は、保険商品で疑問があったら、保険請求の際に診断書を取り寄せます。専門医として、本当に保険給付を受けることができるか否かを検討します。保険会社の中には、医師の書いた診断書に執拗に難癖をつけるところもあるのです。まさに、払いたくないプロ(=保険会社)と払ってほしいアマチュア(患者さん)との戦いです。そのときに、専門医として患者さんをできるだけサポートしたいと考えています。実際、保険自体は優れていても、診断書の様式があまりに不備であるため、おすすめしていない保険もあります。

具体的なアドバイスとして、個人の方には、共済系で基本となる保障を作ってもらいます。そのうえで、さらに必要な保障を考えます。その時に、入院や治療時の高額療養費のこともアドバイスします。サラリーマンなら、傷病手当も強い味方です。多くの方は、掛け捨ての死亡保障で十分です。医療保険は、まずおすすめしません。自営業の方であれば、医療保険より所得補償を薦めます。この場合は生命保険ではなくて損保になります。ですから生命保険会社はほとんどすすめません。もちろん更なる保障を希望されれば追加提案をしますが、多くの方はこれで十分です。

個人事業主や経営者の方には、何よりも最初に小規模企業共済、倒産防止共済をおすすめします。この2つを駆使すればかなりの節税と退職金が準備できます。あとは、借入れに応じて、逓減定期保険で万が一に備えます。この段階を踏んだうえで、多くのFPがすすめる経営者保険の加入を考えましょう。

上記で提案した商品は、保険販売としてはほとんど利益にならないものです。ですから皆さんがFPや保険代理店に相談してもアドバイスがもらえないのです。ただし、保険については全員にベストな選択はありません。それぞれの家庭環境、目的によって異なることに注意してください。(了)