ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第77回「努力の選択と分配」

2014年12月 9日 22:30

一般的には「選択」と「集中」と言われていますが、実社会では「選択」と「分配」が大事ではないでしょうか。


■行動する前に選択に時間をかけよう!
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

今回は「選択と分配」というお話です。よく「選択と集中」と言われますが、社会人は「選択と分配」だと思います。とにかく何かをするときに選択することが大事だなと思っています。今だからこそ明かすのですが、僕、実は幼児期のころほとんどしゃべらなかったため、両親は「ろうあではないか?」と心配したそうです。しゃべることも上手にできなかったみたいで、姉によると、親に「ジュースがのみたい」「お菓子がほしい」など頼みごとをする前に子供部屋で練習をしていたようです。

運動も得意でなく、小学校時代"逆上がり"ができずに恥ずかしい思いをしました。高校になって逆上がりができたときは、一人黙って大喜びしました。成績が悪く、医学部志望を誰にも話すことができませんでした。

意を決して親に医学部志望を話すと、真剣に「無理ではないか?」とたしなめられました。同時にサラリーマン家庭では、私大医学部は無理だと言われました。

そんな自分が、何とか希望をかなえられたのは、乏しい能力をブレることなく一点に集中したおかげだと思います。やみくもに勉強するのではなく、行動を起こす前に徹底した入試問題の分析をし、「何ができるようになったら大学受かるんだろう」ということをずっと意識していました。結果的には、「共通一次で高得点確保、先行逃げ切り」の作戦が現役合格に結びつきました。そんな経験から、"行動を起こす前に考えること"が習慣化されたようです。

こんな習慣が現在の自分にとても役立っています。医師として、経営者として、家庭人として、社会人としてそれぞれの時間を確保するためには、やみくもに時間をかけることはできません。これまでの人生で、要領の悪い僕が必死に行ってきた"努力の選択と分配"が今の生活にも功を奏しています。

――具体的にはどうすればよいでしょうか?

たとえば、社会人であれば「今一生懸命やっている仕事が、自分の目的とつながっているか?」ということなのです。たとえば女優になりたい人が劇団で一生懸命努力しているとします。かつて一度も女優になった人がいないような、小さな子供向けの劇団などで努力してもまず夢は叶いません。まず始めに、女優を輩出しているような劇団を選択することが大切なのです。周りを見回しても、将来の目的と日々の努力の方向性が違う人が本当に大勢います。選択に時間をかけず「とにかく努力さえすればいい」と思っている人は多いのですが、僕は行動する前の選択に半分以上の時間をかけるべきだと思います。

ところで、先日、「中居正広の金曜日のスマたちへ」で川越救急クリニックについて放送されました。川越救急クリニックは外来診療を16時~22時まで行い、救急診療を16時~翌朝9時まで行っています。川越救急クリニックが担う1次救急から2次救急は3次救急を疲弊させない点でも重要です。医療に取り組む真摯な態度に頭が下がりました。

しかし私は、経営者として少し違った視点から見ていました。川越救急クリニックは経営が難しく院長の給料は月額20万円だと言います。そこで他の病院へ出かけ、麻酔の専門医でもある彼はアルバイトをしています。こうしなければ子供が2人いる院長は生活できないということです。

テレビ的には良い話ですが、これは経営的には間違っています。まず、現在の"院長の給与が20万しか取れない"という認識を変えるべきです。正しくは、「売上が損益分岐点を上回り、給与が20万とれるようになった」と考えるべきなのです。つまり、ここから増える売上げはすべて利益になるのです。ですから、この時にアルバイトに出かけてはいけません。少しでも売上げを上げる、もしくは無駄な経費を減らすことに尽力すべきなのです。売上げ増のためには、現在行っている往診を増やすことも有効です。番組を見ただけでも、売上増&経費減で簡単に利益を月額100万以上上げることが可能だと思いました。もちろん、理念を変える必要も過剰医療する必要もありません。ただし、アルバイトはもってのほかです。

――まさしく努力と分配ですね

そのとおりです。実は開業して利益が上がらなくて、バイトに出かける医師は結構います。しかし、それは医療経営者とし、やってはいけない"経営ミス"なのです。このように高い志を持ちながら、数字をコントロールできないばかりに、経営破綻さらには院長が病に倒れることは結構あります。機会があれば、コンサルティングしてみたいケースでした。

ところでコンサルもそうですが、他人への手の差し伸べ方は難しいものです。過剰に差し伸べても本人のためになりませんし、結果も出ません。そのため、私は経営のアドバイスでは、高いコンサルフィーで、受け手の向上心を高めるようにしています。やはり身銭を切らないと真剣になれないようです。

しかし患者さんからは、コンサルフィーをいただくわけにはいきません。そのため、「ヘルプでなくサポート」を基本的なスタンスとしています。ちなみに、ヘルプとサポートの違いは、魚を釣ってあげるのが「ヘルプ」。ともすれば、依存心を植えつけてしまい、自立を妨げることになります。それに対して、魚の釣り方を教えるのが「サポート」。躓いている人に、何らかの助言やヒントを与えて、もう一度自分で歩けるようにしてあげることです。

私には3人娘がいます。本人たちがどうであれば、世間から見れば開業医の"馬鹿娘"です。このことを常に言い聞かせています。恵まれた環境に安住して欲しくないため、「世の中みんなが君たちの不幸を願っている」とまで伝えています。そこから、彼女らがどのような行動をとるかは彼女ら次第です。まさに娘に対しても、「ヘルプでなくサポート」です。

先日ご紹介した、脚本家のSOさんが素晴らしい言葉を教えてくれました。「最大の応援は助けに行くことではない。どんどん進み、その背中を見せること」。僕もどんどん進んで、娘たちに背中を見せていきたいなと思います。(了)