"浮ついた好景気"に踊らされないようにしましょう。
■最大の社会貢献は納税!
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?
最近、テレビ番組を見ていて、少し「バブル」のような浮ついた雰囲気を感じています。前回のバブルは、1980年から1992年と言われていますから、バブルなど経験したことがない世代も増えていることでしょう。私は1966年生まれですから、ちょうど大学を卒業する頃がバブルの終盤でした。僕らの世代では就職で苦労した人はいないと思います。僕が医師になりたての頃は、繁華街でタクシーが止められず、チケットを振りながら止めた記憶があります。
先日もテレビで、開業している女医さんの華々しい生活が取り上げられていました。高級車「ポルシェ」にのり、エステやブランド品の買物のたびにブラックカードを切り、高級マンションで若い恋人と生活。誕生日には、高級ホテルのスイートに泊まって高級レストランで食事......。番組の中で少し気になったことがあるので指摘します。
「年収はおいくらですか?」というインタビュアーの質問に、彼女は「私の納税額が、サラリーマンの平均年収くらいです」と答えていました。インタビュアーは「すごいですね」なんて驚いていましたが、私が計算するに、大した年収ではありません。乗っているポルシェと、マンションの家賃の一部は経費で落とせるにしても、さすがにエステと買い物は計上できないでしょう。高級ホテルの宿泊代と食事代も経費......?
要するに、本当に彼女が言う程度の年収では、とてもそんな派手な生活はできるはずがないのです。結構、クリニックの経費を流用していると思われます。税務署的には、突っ込みどころ満載です。あれだけの生活を、クリニックの資金を流用せずに維持しようと思ったら、個人では相当の所得税を支払う必要があります。
きっと時代の要請で、番組的に派手な生活をしている題材が求められているのでしょう。その餌食になっているとも知らない女医さんが、税務署の餌食になるのではないかと心配になりました。
―今日はいつも以上に切れ味が鋭いですね
それには理由があって、医師を一人養成するには、国公立はもちろん私大でも国のお金が使われています。我々は"国のお金を使わせていただいて"医師になっているので、ある意味公務員のようなものなのです。その上、医師という職業は、人の不幸の上に成り立っているようなところがあります。いくら儲かったとはいえ、慎ましやかな生活をしてもらいたいと思いました。
ところで、バブルを知らない方におすすめの映画があります。『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式』という映画です。監督は、馬場康夫。出演は、阿部寛/広末涼子/薬師丸ひろ子/吹石一恵です。ある一定以上の年齢の方なら、映画を見ながら「ああ、いたいた! こういうヤツ」「オレも似たようなことをやった」と懐かしく思えるでしょう。女性は、極太眉毛にソバージュ&ボディコンファッション。男性は妙に肩の広いスーツとポーチが特徴です。なんだかこっけいですが、当時は皆が同じ格好をしていたのですね。
結局、バブルは「消費至上主義」なんです。とにかくお金を使うことが善とされます。景気が悪いのも困りものですが、映画の中では皆が軽薄な遊び人風に描かれていて、どこかみっともない感じです。バブルを知らない世代にもこの映画を見てもらい、現在進行中の"浮ついた好景気"に踊らされないことを祈ります。
―たとえバブルの時でも「謙虚にほどほどに」という姿勢が大切なのですね
そうです。もっと言うと、「景気が良い時ほど消費は地味に、投資も控えめに」ということが大切です。反対に、景気が悪い時は、消費や投資をすべきです。こういった気概を持った行動が個人資産を増やします。それどころか、皆と違った動きが景気を回復させ、過剰なバブルを抑制して日本経済を救います。自分自身も、株は「世界同時テロ」と「リーマンショック」の時にしか購入したことはありません。もちろんすべて利益を確定しました。今度は、オリンピック前後の暴落が買い時です。その時までに種銭を用意しておきましょう。
ところで、経営者もある程度稼ぐと、社会貢献を口にします。個人でも、寄付行為が盛んです。しかし、難しいことを考えなくても、最大の社会貢献は納税です。今後は、各種控除の縮小や、所得税の最高税率の増税、消費税の増税、相続税の増税と、納税すべき項目は目白押しです。さすがに、「どこまで取るの?」という気にもなりますが、医療介護の現場にいると、病気や介護が必要になる人が、すごい勢いで増えていることを実感します。これでは、国にお金が無くなっても止むを得ないと思います。少なくとも、稼いだ以上に取られることはないので、払える限り払うべきではないでしょうか。
しかし相続税だけは注意が必要です。今回の基礎控除の縮小は、従来は相続税の対象でなかった人にまで影響が出ます。実は今まで相続税は全体の4%の人にしか関係なかったのです。しかしこれからは、都心部でローンをコツコツ払って手に入れた自宅と、退職金でもあれば対象となってしまいます。しかし、この程度であれば生前に贈与等で工夫すればほとんどクリアできます。もちろん相続人に、相続税を払うだけの現金があれば問題ありません。しかし、現金がなければ、不動産を売却する必要性さえでてきます。ぜひ、事前に勉強し、行動を起こしてもらいたいと思います。
現在、上場しているオーナー企業の創業者の8割が加入している海外の保険があります。この保険は、日本の保険会社にはない高額な死亡保険金が特徴です。死亡時の納税のためにたくさんの株を売却してしまうと、経営母体が揺らいでしまう可能性があります。ですから、しっかりと現金を確保して納税するために加入しているのです。できれば、日本の生命保険にも、参考にしてほしい保険です。多くの日本人は、払える現金さえあれば、税金を払う気はあるのですから。(了)