好きと嫌いを分ける"軸"を見つけると、自分が目指すべき人物像が分かるかもしれません。
■私たちは「他人」の中に「自分」を見出すことができます
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?
先日あるセミナーで面白いワークを経験しましたので紹介します。このワークは「好きな人」と「嫌いな人」を挙げていき、そこから自分の軸を見つけるというものでした。
―長谷川先生が好きな人物とその理由を教えていただけますか?
私が好きな人は3人です。一人目は落合博満さん。みなさんもよくご存じの超一流プロ野球選手です。現役時代は三冠王を3度達成し、日本プロ野球史上唯一の記録を残しています。
2004年から2011年までは中日ドラゴンズの監督として指揮を執り、すべての年でAクラス入りを果たしました。4度のリーグ優勝、1度の日本一に輝いた名監督であり、2013年からは中日ドラゴンズのGM(ゼネラルマネージャー)を務めています。選手・監督と二つの成功を収める人は少ないものです。これが私の価値観と一致しているようです。
落合さんは『采配』(ダイヤモンド社)という本を出版されましたが、経営者にとっても大変ためになる内容です。私もがっちり心をつかまれました。『戦士の休息』(岩波書店)は、大の映画好きである落合さんが古今東西の作品を語り尽くした痛快エッセイです。
その中で「評論家がベストに選ぶことはないだろうけど、僕は『チキチキ・バンバン』が大好きだ」という一節があります。落合さんほどの名監督がこんなに愉快な作品を好きだという、そのバランス感覚が素晴らしいと思います。
二人目は小林一三(こばやし・いちぞう)さんです。彼は阪急電鉄をはじめとする阪急東宝グループ(現・阪急阪神東宝グループ)の創業者です。日本で初めて鉄道を起点とした都市開発・流通事業を一体的に進め、私鉄経営モデルの原型を独自に作り上げました。
小林さんのもう一つの功績は宝塚歌劇団を創設したことでしょう。宝塚にかける情熱は大変なもので、ときには舞台の脚本まで執筆したそうです。また実業界屈指の美術蒐集家であり、茶人としても知られていました。美術品の数々は彼の雅号をとって「逸翁(いつおう)コレクション」と呼ばれています。
三人目は大学教授・工学者の上原春男さんです。効率的な海洋温度差発電システムである「ウエハラサイクル」の発明者です。
さらに上原さんは海洋温度差発電の研究の中で「成長・発展するものに共通する法則」を発見しました。それを自身が主宰する「成長塾」を通じて経営者に発信しているのです。上原さんの講演やコンサルティングにはそうそうたる企業の経営者が詰めかけるそうです。
―長谷川先生の嫌いな人物とその理由を教えてください
私の答えは民放テレビでコメントしている某医師です。この人は医師としても一流ではありません。それなのに医師の世界にどっぷり浸かっていて、他業界とのつながりも感じられないのです。
この二つの質問に対する答えから、自分の「好き」と「嫌い」を分けている軸がわかってきました。やはり私は一つの分野に秀でた「職人」が好きなようです。また同時に「職人だけ」は嫌だと考えます。
職人の世界に留まるのではなく、芸術やコンサルタントといった新たな世界でも能力を発揮することに価値を見出しているのです。だから私も認知症専門医であるだけでなく、コンサルタントや経営者として活躍のフィールドを広げたいのです。
私が実際にコンサルティングするときも、職人的発想から脱却してもらうことを第一段階としています。クライアントが開業医であれば自分がいなくても収益が上がる仕組み、著者であれば出版して収益が上がる仕組みを構築することが得意です。
ぜひみなさんもこの質問に対する答えから、自分の「好き」と「嫌い」を分けている軸を見つけてみてください。きっと「自分が本当に付き合うべき人」や「目指すべき人物像」がわかるはずです。(了)