ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第41回「春山満さん...ご冥福をお祈りします」

2014年4月 1日 22:30

筋ジストロフィーの患者で介護用品開発販売会社"ハンディネットワーク インターナショナル"社長の春山満さんが亡くなりました。


■「宿命」を「立命」に変えた鮮烈な人生
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

平成26年2月23日、筋ジストロフィーの患者さんで介護用品開発販売会社ハンディネットワーク インターナショナル社長の春山満(はるやま・みつる)さんが呼吸不全で死去されました。

春山さんにはちょうど3年前、平成23年1月22日に私が会長を務めるNPO法人PAL研究会で「右手にロマン、左手にソロバン」の演題で講演会をお願いしたことがあります。

会長である私はいつも講演前にあいさつをさせていただいています。普段はあまり緊張しないのですが、このときばかりは例外でした。

春山さんは筋ジストロフィーにより、首から下の筋肉がまったく動きません。とはいえ「障害をバネにビジネスで成功なさっている」などと安易な言葉で紹介してはいけないのでは......とずいぶん悩みました。そこで障害のことは話さずに、ビジネスについてだけご紹介してあいさつと代えさせていただきました。

講演が始まると、思ったとおりでした。春山さんは冒頭ではっきりおっしゃったのです。「私自身は障害を逆手に取った気持ちもないし、今の環境でいかに生きていくかを懸命に考えているだけです。難病にならなかった人生は考えられない」。本当に力強い言葉でした。「障害をバネに」などというなまやさしい言葉でご紹介しなくて本当によかったと思いました。

みなさんは首から下の両手足が動かない状態を想像できますか? 例えば春山さんはメモを取ることができません。自分の記憶力を高めなければ生きていけないのです。その緊張感から独特の反復練習を心がけられているそうです。講演中も自分が話した内容を意識的に繰り返している様子には感心しました。

またある時期から辞書を引くことができなくなったものの、かえって英語力が格段に向上したそうです。

―人間は「可能性の塊」なのですね

しかし日常生活はすべてにおいて介助が必要です。春山さんの会社の新入社員は最初に春山さんの介護をするそうです。何しろ首から下が全く動かないのですから、食事、、入浴、移動すべてに人の力を借りなくてはいけません。

障害を持つようになった春山さんは、医療や介護の世界には「望まれていながら提供されていないサービスがいかに多いか」を痛感したそうです。

もちろん春山さんと同じように感じる人はいると思いますが、彼のすごいところはそれらを実現すれば「健全な利益を確保することができる」と考えた点です。

医療や介護の業界ではなぜか利益を上げることに嫌悪感を持つ人が少なくありません。春山さんの言葉を借りれば「利益なくして継続はない」です。医療法人ブレイングループもスタッフ一同、肝に銘じなければいけない言葉でした。

―他にも春山さん言葉で印象的だったものはありますか?

「病院はサービス提供の場ではない」という、私たち医師にとっては厳しい言葉をいただきました。さらに「小さな権力を持った人たちはなぜかスリッパを履いている。その代表は医師と教師と公務員」というお話には思わず笑ってしまいました。

講演中に春山さんが繰り返していた言葉に「常識・社会・時代を疑え!」があります。マスコミも世間も評論と分析ばかりで、現在は日本国民「総評論家」とおっしゃられていました。

またデンマークの高福祉を紹介する際には、「花と茎と根を知れ!平等という花には、自己責任が伴う」の言葉とともに自己責任としての負担が求められることをお話しくださいました。

デンマークは所得の多少に関わらず所得税は50%、さらに地方税と消費税が必要です。仮に100万円の収入があっても残るのは23万円になる計算です。みなさんはそれでもデンマークをうらやましいと思うでしょうか?

そして最後には春山流ビジネスのKey Pointをご紹介いただきました。

1)ニーズの裏のウォントを探れ......「何が必要か」では不十分、「何を欲しているのか」までを掘り下げる
2)ニッチのガリバーを目指す......ニッチを極めて成長すること 
3)言い訳をするな!......難病は言い訳でない、これが僕の条件。人とは比べない

きっと聴衆も気が引き締まる思いだったでしょう。春山さんは「右手にロマン、左手にソロバン」に「人生はニコニコ顔で、命がけ」を付け加えて講演を終了なさいました。改めて講演の内容を反復するとともに、春山さんのご冥福をお祈りします。(了)