ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第36回「本の紹介:本郷尚著『こころの相続 幸せをつかむ45話』」

2014年2月25日 22:30

従来のテクニックに走る相続本とは違う切り口の、自分だけではなく家族も幸せになるアイデア
満載の本です。


■お金を家族の争いの種にしないために
―今回はどんな本を紹介していただけるのでしょうか?

今後相続税の増税が予想されるため、相続関係の本がたくさん出版されています。そんな中で今回ご紹介するのは税理士である本郷尚(たかし)さんの『こころの相続 幸せをつかむ45話』(言視舎)です。相続をテーマにした本は何かとテクニックに走りがちですが、本郷さんはあくまで「こころ」の面を強調しています。私が主宰する「一般社団法人東海相続支援コンサルティング協会」においても学ぶことが多々ありました。そこで本書から一部抜粋しながら解説していきたいと思います。

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人間は頭で考え、心で動くもの。特に相続では「勘定」と「感情」が交錯する。
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とてもいい言葉だと思いませんか? 本郷さんは理屈だけでなく相手の感情も尊重することの大切さを訴えています。

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相続は「権利」ではない。愛するものからの「ギフト」である。争って奪い取ったお金は「死に金」になって消え、感謝して譲り合ったお金は「生き金」となって長く活かされる。
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これもいい言葉です。例えば自分の財産を奪い合う子どもたち(相続人)の姿を目の当たりにすると、親(被相続人)は嫌気がさしてしまうかもしれません。しかし多くの場合、子どもたちは自分の贅沢のために財産を欲しがっているわけではないのです。

彼らにも子どもがいて、その子たちに少しでも良い生活をさせてあげたいという思いが根底にあるのです。そこで被相続人である親が相続人である子どもたちの事情を察し、配慮してあげるとすべてがスムーズにいきます。

そんな配慮のひとつの形として「贈与」があります。親も「私のお金を当てにするな!」などとは言わず、自分の子どもが住宅費、教育費などで最もお金を必要としているときに助けてあげればきっと感謝されるはずです。

本書では1人につき500万円として、自分の子どもやその配偶者まで含めた10人に贈与した人の例が紹介されていました。「受け取った方々の喜びは大変なもので、まさに記録より記憶に残るできごとだった」「贈与は感謝の心のキャッチボール」と本郷さんも評しています。

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相続に弁護士を入れて裁判になれば、家族関係は修復不可能となる。税理士の段階で落としどころを探す。
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これは税理士である本郷さんならではの考え方です。私の「一般社団法人東海相続支援コンサルティング協会」には、税理士はもちろん弁護士、司法書士、行政書士、不動産鑑定士といった士業がそろっています。とはいえ場合によっては弁護士の介入を控える必要があることを痛感しました。

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もめたときは譲るが「勝ち」、譲るが「価値」。
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特に力のある人、上に立つ人が譲ると問題がまとまります。ここでは一戸建てを売却して駅直結のマンションに住み替えたご夫婦の話が紹介されていました。

年を取ってからの一戸建ては「階段の昇降」「防犯上の不安」「病気になったときの経済的不安」などが生じます。しかしなかなかご主人が動いてくれないので、奥さんが中心となって駅直結のマンションに住み替えたのでした。その結果ご主人は雨傘、奥さんは日傘が不要になったということです。

ところでこの一戸建てはご主人のご両親から「この家にずっと住む」という約束で受け継いだものでした。そこで奥さんは一戸建てを売却したお金からマンションの購入費用を引き、その残額をご主人の兄弟に贈与することにしたのです。

贈与は義務ではありませんが、もしその売却したお金をすべて自分たちのものにしていたら他の兄弟は何と思うでしょうか? たとえわずかな額でも贈与したことで兄弟仲良く過ごすことができるのです。まさに「双方が少しずつ譲るとうまくまとまる」という好例でしょう。

本郷さんは以下のようなアドバイスもしています。
①自宅を売却して利益が出た場合は特別控除3000万円が使える。夫婦の共有名義物件にしておけばそれぞれで使えるため、売却益が6000万円までは無税となる。

②贈与する際は年末、年始を使って2年に分けると節税できる。年間110万円までは無税なので、12月31日と1月1日に分けて贈与すれば合計220万円が無税となる。

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お金に賞味期限はないが、人生に賞味期限はある。
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たまに「自分で稼いだお金は全部使ってから死ぬ」と言う人がいますが、そのお金もいろいろな人の助けがあったからこそ手に入れられたはず。先祖から受け継いだり自分が稼いだりしたお金を有効に使い、その残りを子どもたちに生き金として伝えることが最も大事ではないでしょうか。

結論としては贈与や相続を通して「人を育て、人を遺す」ことが一番大切だと言えそうです。本郷さんは「親は子を見ているようで見ていない。子は親を見ていないようで実はしっかり見ている」とおっしゃっています。私もこの言葉を肝に銘じようと思いました。

本書は従来の相続本とは異なる切り口で書かれています。今ある資産を有効に使い、自分はもちろん家族まで幸せにするアイデアが満載です。多くの方の役に立つことうけあいの一冊です。(了)