ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第25回「映画"そして父になる"...映画の二家族から学ぶ」

2013年12月 3日 22:30

長谷川ならではの視点で、劇中の二家族を対比しています。


■「都会の勝ち組」野々宮家の意外な懐事情
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

先日、福山雅治さん主演の映画『そして父になる』を見ました。これは2013年制作の日本映画で、監督は是枝裕和さん。福山さんが初の父親役を演じました。第66回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品され、審査員賞を受賞したことも記憶に新しいと思います。みなさんはご覧になったでしょうか?

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【あらすじ】
大手建設会社に勤め、都心のマンションに住む野々宮良多と妻みどりの間には6歳になる一人息子がおり、家族は幸せに暮らしていた。ある日、息子を出産した病院から「重要なお知らせがある」と呼び出される。なんと出生時に子どもの取り違えが起き、実の息子は斎木家の長男だというのだ。

ショックを受ける野々宮夫妻だったが、群馬県で小さな電気店を営む斎木家と交流を始める。6年間育ててきた子どもを手放すことに苦しみつつも、ついに両家は「交換」に踏み切るのだが......。
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とても感動的なお話ですが、私は全く違う視点で見ていました。まず主人公の野々宮は幼少から家族関係に恵まれず、学歴・仕事・家庭を自分の能力と努力で手に入れ「自分は人生の勝ち組だ」と信じて疑わないという設定です。

しかし彼は所詮サラリーマン。一流企業に勤めているとはいえ東京スカイツリーが見える高級マンションに住むには無理があります。親の援助でもあればいいのですが、彼にそれは望めません。となると相当の借金を背負っているはずです。

そのうえ彼は高級車レクサスに乗り、妻は専業主婦。息子はピアノを習いながら私立の小学校受験を控えているという状況です。これではたとえ一人っ子でも生活はかなり苦しいと思います。もう一人子どもが生まれれば、経済的に破綻することは目に見えています。さらにリストラにでも遭ったら、自己破産へまっしぐらでしょう。

―野々宮のような生活をしている人は多いと思うのですが......

そういう人たちはたいてい親の援助を受けているものです。私の友人にもマンション購入時に親から数千万円もの援助をしてもらったり、新しい家を建ててもらったりした人がいます。野々宮と同じような生活をしていても、親の援助があれば経済的破綻のリスクを減らすことができます。

かたや斎木家は田舎の汚い家に住み、小さな電気店を営んでいます。妻は弁当屋でパート勤め。一見貧しそうに見える設定ですが、田舎の古い家に住宅ローンはなさそうです。おじいさんと同居していますから、おそらく親の家にそのまま住んでいるのでしょう。

もちろん生活費は安く、子どもたちの教育費もあまりかかりません。パートとはいえ妻が働いている点は大きいです。これなら少額ながらも貯金ができるでしょう。斎木家の全財産を計算するとプラスマイナスゼロ、もしくはわずかにプラスになるのではないでしょうか。

その点野々宮家は住宅ローン等を含めるとマイナスになり、何かあったとたんに破綻するリスクが大です。そんなことを考えながらドキドキして見ていました。

―まさに長谷川先生ならではの視点ですね

①住宅ローン
②車
③子どもの教育費
④配偶者の仕事の有無

この四つがポイントです。特に住宅と車は一度派手にするとその後レベルを落とすことはなかなか難しい。また多くの人が死守しようとするのは子どもの教育費ですが、これが命取りになることもあります。もし私立の学校を目指すことになれば、それに伴って塾などの教育費も雪だるま式に増えます。そのとき配偶者が働いているかどうかが重要になってくるのです。この映画では見事に四つのポイントを両家で対比させており、これこそが是枝監督の意図ではないか? と思ってしまうほどです。

『そして父になる』はとても感動的な物語ですが、中にはこんな見方をする人間もいることを知っていただければと思います(笑)映画を見るときには自分なりの視点を持つことが大事ではないでしょうか。(了)