しっかり運転資金を準備しておかないと、黒字倒産もありえます。
■銀行が融資を渋る原因はあなたにある!
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?
私は経営をしていくうえで「言葉の定義」を理解することがとても重要だと考えています。特に経営者の多くが勘違いしている定義の代表格は運転資金です。
自分の手元に資金が足りなくなると、単純に「運転資金が足りない」と発言したり「運転資金を銀行が貸してくれない」と嘆いたりする人がいます。しかし定義通りの運転資金が必要なのであれば、銀行が貸してくれないことはありません。
―運転資金の定義を教えていただけますか?
運転資金とは、
【売上債権+棚卸資産-仕入れ債務】
です。この定義の範囲内であれば、よほどのことがないかぎり銀行はお金を貸してくれます。
―それなのになぜ「銀行がお金を貸してくれない」と嘆く経営者が多いのでしょうか
そういう経営者が運転資金と言っているものは、実は赤字補てんである場合がほとんど。だから銀行は融資をためらうのです。
実際にある銀行員も「経営者は運転資金を貸してくれと言いながら、赤字補てんの資金を借りに来る」と言っていました。いかに多くの経営者が勘違いしているかがこの言葉に象徴されています。
銀行員は口にこそ出しませんが、内心「うちからお金を借りるより、自分で赤字を埋める方法を考えるほうが先じゃないか......」と思っているはずです。
―「売上債権+棚卸資産-仕入れ債務」が運転資金の定義とうかがいましたが、語句を詳しく説明していただけますか?
それぞれの解説は以下の通りです。
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売上債権......後日、お客様から販売代金などを支払ってもらえる権利のこと。「売掛金」などが含まれる
棚卸資産......まだ売れずに残っている商品、製品、原材料などの在庫
仕入れ債務......後日、仕入れ先に仕入れ代金などを支払わなくてはいけない義務のこと。「買掛金」などが含まれる
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さて、ここでもう一度具体的な例を挙げて運転資金とは何かを説明しましょう。
【例】
これから事業を始めるAさんの手元に100円のお金(資金)があるとします。その100円でひとつ10円のミカンを10個仕入れ(代金は即支払い)、そのうち8個をひとつ15円で売りました(2個は余り)。この代金120円は翌月に入る予定です。
このとき損益計算書を見ると、
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①15円のミカンが8個売れた......売り上げ120円
②10円で仕入れたミカンが8個売れた......売上原価80円
③売り上げ120円 - 売上原価80円 = 40円......利益40円
④ミカンが2個売れ残った......在庫20円
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ということがわかります。
しかし気を付けてほしいのは③の利益40円です。なぜならミカンの代金は翌月に入るので、Aさんの手元にはお金がありません。「利益が出た=実際にお金が増える」というわけではないのです。
現在Aさんの手元にある資産は、
・現金0円
・在庫20円
・売掛金120円
となります。
―現金が0円だと、次の仕入れができませんね
そこでAさんは銀行からお金を借りようと考えました。この場合運転資金としてどれだけの額が必要になるでしょうか?
冒頭で説明した運転資金の定義
【売上債権+棚卸資産-仕入れ債務】
に当てはめてみましょう。今回は仕入れ債務がない(=0円)ので、
【売上債権(売掛金120円)+棚卸資産(在庫20円)
-仕入れ債務(在庫0円)=140円】
Aさんに必要な運転資金は140円になります。
―この定義を踏まえて銀行に話せば融資が通りそうですね
その通りです。事業を行っていくうえでは「自分の会社に運転資金はいくら必要なのか」を知っておくことが大切です。
それに売り上げが増加したら必要な運転資金も増えます。この点をおろそかにすると、経理上は黒字なのに仕入れのお金がないせいで黒字倒産するおそれがあります。
また例として挙げたAさんのビジネスではミカンを最低でも7個は売らないと赤字になってしまいます。売れた数が7個より少ない場合、銀行には運転資金と赤字補てん分のお金を区別して話さなければなりません。
―運転資金と赤字補てんの区別ができると、銀行からも一目置かれそうですね
ビジネスを始めて何年も経つのに、いまだに赤字を出し続けている。そんな経営者が「銀行は運転資金を貸してくれない」と嘆いていることがあまりに多いと思います。まずは自分でミカンを7個以上売るビジネスモデルを考えましょう。
その重要性がわかっている経営者の話であれば、銀行も耳を傾けるものです。この機会に決算書を見るなどして運転資金について再考してみてはいかがでしょうか。(了)