ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

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認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。
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インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第20回「"半沢直樹"から、信用取引の怖さを知る」

2013年10月29日 22:30

個人でも法人でも「信用取引」には手を出さないことが賢明です。


■お金のプロさえも転落させる「信用取引」とは?
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

先日終了したテレビドラマ『半沢直樹』の視聴率が凄かったようです。我が家でも妻や子どもたちが夢中になって見ていました。どうやら水戸黄門的な勧善懲悪が受けているようですが、話題から取り残されるのも悔しいので(笑)原作2冊を読んでみました。

原作は池井戸潤さんの『オレたちバブル入行組』と『オレたち花のバブル組』(ともに文藝春秋)です。池井戸さんといえば『下町ロケット』で直木賞を受賞、他にも『空飛ぶタイヤ』『鉄の骨』『七つの会議』などの作品があり、どれも一気読みしてしまう面白さです。半沢直樹の原作2冊も同様でした。そこで今回は『半沢直樹』を少し違った視点でお話ししたいと思います。

―長谷川先生はどんなところに注目したのでしょうか?

原作2冊およびドラマのストーリーの共通点として「信用取引」がありました。1作目は銀行の支店長が5000万円の報酬で悪事に手を染めています。都市銀行の支店長の年収を考えると5000万円程度で買収することは難しいはず。それにもかかわらず彼が乗ってしまったのは、株の信用取引で5000万円の負債を抱えていたからでした。サラリーマンにとっては自己破産の可能性もある額です。

―信用取引とはどんなものなのでしょうか

株の信用取引とは「自分を信用してもらい、持っている資金以上に投資を行うこと」です。自分の資金・有価証券などを担保にし、証券会社からお金を借りて投資するのです。

例えば現物取引(一般的な取引)では、100万円しか持っていなければ100万円分の取引しかできません。ところが信用取引を行うと50倍の5000万円分の取引ができるのです。これをレバレッジ効果と言い、リスク・リターンともに50倍になります。

現物取引では最悪でも投資した100万円を失うだけですが、信用取引は100万円投資して5000万円損をすることがあります。だからこの支店長のようなことが起きるのです。

みなさんは「こんなことはドラマや小説の世界に限ったこと」と思っていませんか? 私の父は元銀行員ですが、信用取引が原因で銀行員仲間2名が今でも行方不明だそうです。そのため私は昔から「信用取引にだけは手を出すな!」と厳しく言われて育ちました。

―銀行員ですら失敗するとは、恐ろしいですね

経営に厳しくて有名な私の顧問会計士さんも信用取引で数百万円の損をしていますし、外貨の信用取引で自己破産した経営者仲間もいます。どうやら少し数字に強い人(銀行員や会計士、経営者)ほど被害に遭いやすいようです。

さらに2作目では、法人が信用取引に手を出して何百億という莫大な特別損失を抱えるという設定です。やはり個人でも法人でも、信用取引には手を出さないことが賢明だと言えそうです。「倍返しだ!」というドラマの決めゼリフに喜んでいるだけでなく、子どもに信用取引の怖さを教える機会にしてみてはいかがでしょうか。

―ドラマがヒットして銀行員にも脚光が当たっていますね

私自身は医師ですが、父方・母方ともに祖父は銀行員でした。父も銀行員、母も元銀行員で職場結婚です。叔父さんや従兄弟にも銀行員がいたので、まさに銀行員一族でした。

特に私の著書の認知症のモデルになった父方の祖父はそろばんの名手でした。かつて東海銀行の行員は入行すると全員祖父の講義を受けたそうです。そのため70歳以上の元東海銀行員の中には祖父のことをご存じの方がいらっしゃいます。

当時の名古屋では東海銀行はとても信用があり、行員の子である私も誇りを持っていました。親の職業を書くときも「会社員」ではなく「銀行員」とこだわっていたほどです。

そんな東海銀行も幾多の合併を経て、今では三菱東京UFJ銀行になっているから寂しいものです。それ以上に身内が持ち株会で持っていた東海銀行の株が9割以上目減りしたことも寂しいのですが......。

私が経営者になってからは銀行員との付き合いが増えました。開業した当時はバブル崩壊後で、それから不良債権処理やリーマンショックなどもありいまだに銀行員に元気がない点は残念に思っています。

さてここで経営者が銀行員と付合うときに知っておくといいことをお教えしましょう。「銀行がお金を貸してくれない」と嘆いたり銀行の担当者を毛嫌いしたりしてはいませんか? しかし担当者も支店に戻れば上司を説得する必要があることを忘れてはいけません。

つまり経営者は担当者の上司を説得できるような決算書、経営方針書、計画書を用意しておくことが大事なのです。ちなみに私は開業時に医学論文の形式に沿った融資依頼を書きました。するとめったに褒めることのない父が「これは上司を説得するのにとても役に立つ」とお墨付きをくれ、融資もスムーズに受けることができました。

最近は自分より若い銀行員が増えてきました。銀行は融資で将来性のある新しい企業をサポートするという役割を担っています。経営者も襟を正し、半沢直樹のような元気な銀行員と協力してこの国を元気にしていってほしいものです。(了)