ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。
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インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第19回「公務員はなぜ認知症になりやすいのか~ボケやすい脳、ボケにくい脳4」

2013年10月28日 23:13

最終回は、認知症を病気ではない面から捉えたお話です。


■認知症でも車の運転ができる!?
―9月30日に発売された長谷川先生の著書『公務員はなぜ認知症になりやすいのか~ボケやすい脳、ボケにくい脳』(幻冬舎)から、今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

これまでとは少し視点を変えて、認知症を社会的な面からとらえたお話をしたいと思います。

私が認知症の患者さんに対して必ず確認すること。それは車の運転についてです。最近アクセルとブレーキを踏み間違えた、高速道路を逆走してしまったなど高齢者による交通事故の増加が問題になっています。これらは単なる事故として報道されていますが、我々医師からすると認知症もしくは認知症の前段階にある人が引き起こしたことは明らかです。

車の運転ができるなら認知症ではないと思うかもしれません。しかし認知症は人の行動すべてを統括する「前頭葉」の機能低下を招きます。そのため車の運転ができてもとっさの事態に適切な判断をする能力が著しく落ちてしまうのです。

そこで当院は軽度の認知症でも車の運転を控えるようにアドバイスしています。ご家族のなかには「運転免許更新の際の認知症テストに合格したから大丈夫では?」とおっしゃる向きもあるのですが、このテストはかなり認知症が進行した人でも合格することがあり、あまり信頼できません。

数年前にはてんかん患者さんによる交通事故が続きました。その結果てんかん患者さんに対する運転免許交付条件が厳しくなったことは記憶に新しいと思います。私は同じことが認知症患者さんでも起こるのではないかと危惧しています。

―今のところ行政が対策に乗り出している様子はないようです

残念ながら行政は重大な事故が起きないかぎり動いてくれません。少なくとも私の患者さんがそのきっかけの事故を起こさないように厳しく指導しています。認知症初期の治療には社会参加が有効ですが、車の運転に関しては相手がいることなのでご理解願っています。

また私は「悪質な業者にだまされたことはありませんか?」という質問も必ずします。軽度の認知症患者さんを訪問や電話で巧みにだまそうとする業者は後を絶ちません。布団・鍋・健康食品の押し売り、悪質リフォーム、お布施の強要など手口を数え上げればきりがないほどです。しかもある業者に一度だまされると、情報が回るのか別の業者まで群がってくるので注意してください。

金融機関にも注意が必要です。大手銀行であれば「認知症の有無にかかわらず80歳以上の高齢者には投資信託など元金が保証されない商品は販売しない」という社内規定を設けているところもありますが、このような金融機関ばかりではありません。認知症患者さんと知りながら元本保証のない商品を売りつけ大損させたという報告もひんぱんにあります。

そこで持ち上がってくるのが「成年後見人制度」です。認知症が進行して契約能力や財産管理能力がないと判断された場合、身内もしくは弁護士、司法書士等が後見人に選任されます。

―後見人はすぐに付けたほうがいいのでしょうか?

認知症患者さんの実情を知る専門医としては、急いで後見人を付ける必要はないと思います。もちろん一人暮らしでたびたび悪徳業者にだまされた、身内にお金を使い込まれていたなどのケースでは必須ですが、認知症患者さんの子どもが生活費や介護費用を親の口座から引き出すぐらいなら問題はありません。

後見人を付けると毎年家庭裁判所への報告義務が発生するうえ、相続税の節税を目的とした「贈与」「借り入れをしてアパート建築」などができなくなります。会社経営者だった認知症患者さんに後見人が付くと、会社の後継者へ自社株を贈与することも不可能になります。

銀行から指摘されたときは速やかに手続きをするとしても、困っていないうちは急ぐ必要はありません。成年後見人の手続きはかなり簡略化されているので、必要を感じてから行っても十分間に合います。

■遺言は思い立ったらすぐ作ろう
―認知症になってしまうと遺言も作成できなくなるそうですね

その通りです。この点を指摘するとほとんどの人は「私には財産がないから関係ない」と答えます。しかし相続税が発生するケースと混同してはいけません。

確かに相続税が発生するのは1年間の死亡者数約100万人のうちおよそ4パーセント。4万人に過ぎません。しかし遺産をめぐる家族間の争いは相続税の有無に関係なく発生します。裁判所で調停を受けたケースの75パーセントは遺産額5000万円以下、さらにそのうちの30パーセントは1000万円以下というデータもあります。

私も認知症専門医として裁判の鑑定や遺言作成などの依頼をたびたび受けています。子どもがいない夫婦、相続人以外の人(介護の世話になったお嫁さんや内縁関係の方)に財産を残したい場合は、ためらうことなく「今」遺言を作成するべきなのです。さらに延命に対する要望などを記載したエンディングノートを用意しておけば完璧です。

―認知症になってもよりよく生きるためのアドバイスをいただけますか?

介護を受けるようになったときは変なプライドを持たないこと。素直に仲間の輪に入り、さりげなく「ありがとう」と言える性格になれば人生を楽しく終えることができます。私も日々認知症患者さんと触れ合うなかで学ぶことは多いです。

今回をもって私の著書の紹介は終わります。本書が多くの方の助けになることを願ってやみません。(了)