決算書が読めない経営者の方、読むのではなくチェックをしましょう。
■決算書を読むことなしに経営は成り立たない
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?
決算書というと、自分には関係ないと思うかもしれません。しかし決算書はいわば会社の成績表。そう考えるとサラリーマンでも無視はできないのです。ましてや経営者ともなれば読めて当然です。
ところが経営者の集まりなどで「決算書が読める人はいますか?」と質問すると、なかなか手を挙げる人はいません。遠慮しているのかもしれませんが、実際に会話していても「多分この人は理解できていないのだろうな」と思わせる経営者が多いです。それを裏付けるかのように、あるデータでは「中小企業の経営者のうち8割は決算書が読めない」と報告されています。
―驚くべき数字ですね
決算書が読めないということは、地図を持たずに航海しているようなものです。「そういうことは全部会計事務所に任せている」と言う人もいますが、それでは経営者として心もとない。その一方で「決算書を読めるようになりたい」と思っている人も多いようで、決算書の読み方を解説した本やセミナーは人気があります。
ちなみに私は自信を持って「決算書が読める」と言えます。もちろんそれには理由があります。私は2000年4月に開業したのですが、そのとき父から会計ソフトを使って現金出納帳と預金出納帳に毎日入力することを勧められたのです。
勤務医から独立したばかりの私は、決算書について全くの無知。忙しい時期に単純作業を繰り返すことにも抵抗感がありましたが、とりあえず続けてみました。すると徐々に勘定科目や仕訳などがわかってきたのです。
最近の会計ソフトはとても優秀です。ボタン一つで瞬時に損益計算書を貸借対照表に変換できるのですから。
そして減価償却も簡単です。例えば100万円の軽自動車を購入した場合、4年に分けて(1年に25万円ずつ)経費化しなければいけませんが会計ソフトだと難なくできます。もし軽自動車を一括で経費化していたら、損益計算書の数字がおかしくなるので間違いに気付くことができます。
また損益計算書には軽自動車が資産として記載されることやキャッシュフローについても理解できるようになります。
■会計ソフトは「案ずるより入力するが易し」
―会計ソフトに毎日入力することは、手間ではありませんか?
慣れればそれほど時間はかかりません。しかしこの点を誤解している人が多いことを見越してか、減価償却の手間がかからないことをセールスポイントにしているリース会社をよく見かけます。しかし先ほど述べたように会計ソフトを使えば減価償却の入力などすぐできます。さらに十分な現金があるのなら、リースを使う必要すらないこともわかります。
ところで当グループは会計事務所に月次決算報告書を提出してもらっていますが、その期限は月末の締めが終わってから10日以内です。
この要望を伝えたとき、最初会計事務所は「とても無理です」と抵抗したものです。しかし私は自分の経験から問題なくできることがわかっており、ゆずりませんでした。会計ソフトを一度も使ったことがない人だったら、「ああそうですか」と会計事務所の言い分をのんでしまうところだと思います。
昔から「学問に王道なし」といいます。本を読んだりセミナーに参加したりして手っ取り早く済ませようとしても、しょせんはうわべの知識。やはり自分の手と頭を使わなければ確固たる知識・知恵にはならないのです。
―決算書について会計士に聞いても、説明がわかりにくいという声もあります
それは同感です。私もつい「彼らは自分たちの優位性を保つために、あえて難しく説明しているのでは?」と勘ぐってしまうほどです(笑)医師の世界でも、優秀な先生の説明は極めてクリアカットでわかりやすい。彼らにはさらなる努力と工夫をしてほしいと思います。
そこで一つ提案があります。それは「決算書が読める」ではなく「決算書がチェックできる」と表現を変えること。
「決算書が読めるか」と言われると、経営者でも「そこまでは......」と気後れしがち。しかし「チェック」ならできると思えるのではないでしょうか。
―決算書のどこをチェックすればいいか教えていただけますか?
損益計算書では「粗利率」「労働分配率」「経営安全率」の三つ。
貸借対照表では「当座比率」「自己資本比率」の二つです。
これらを先月と前年同月で比較してみると、会社の経営状態がよくわかります。慣れてくると他社の決算書もチェックできるようになります。そのときは「決算書が読める」ようになったも同然。ぜひみなさんも決算書を「チェック」することから始めてください。(了)