業種に関係なく、優秀な経営者は成功させる事が出来ると確信させる内容です。
■厳しい状況が続く飲食業界で一人勝ち!
―今回はどんな本を紹介していただけるのでしょうか?
ブックオフを上場させた坂本孝さんの『俺のイタリアン 俺のフレンチ』(商業界)です。本書は飲食業界だけでなく、他業種の方にも大変参考になる内容だと思います。
とはいえ最初にこの本の装丁を見たときは、あまりピンと来ませんでした。もし帯に稲盛和夫さんの推薦文がなければ購入しなかったでしょう。ところが実際に読んでみると、経営について衝撃を受けるような示唆がたくさんありました。そこで印象に残った部分をいくつか抜粋しながらご紹介したいと思います。
「ビジネスの戦いに勝つ条件は『競争優位性』があること。そして『参入障壁』が高いこと」
簡単に言うと「まねされにくい」ということです。どんなにいいアイデアを思いついても、参入障壁が低ければすぐにまねされて自分の競争優位性も失われてしまいます。
かつて「乗るだけで痩せる」というエクササイズマシンを置いた店舗が大流行したことがありました。しかしこれは機械さえあれば誰でもできること。あっという間に参入され、今では見かけることも少なくなりました。
スーツの価格破壊をうたったお店も、数年前は画期的でしたが今ではあちこちにできています。評判のいいビジネスモデルには人が群がってくるもの。だからこそ他の人が参入しにくいビジネスモデルを確立することが大事だと坂本さんは述べています。
「回転率が上がれば、原価率60パーセントの方が利益を出しやすい」
レストランの原価率は一般的に30パーセントが上限だといわれています。原価が3割以下でなければ、材料費・家賃・光熱費などを差し引いたときの儲けがなくなってしまうからです。ところが坂本さんは原価率60パーセントでも利益を出せると言っています。
そのポイントは家賃でした。私は以前「どんなビジネスでも家賃比率15パーセントが適正。さらに工夫すれば12~10パーセント程度に抑えられる」という主旨のお話しをしたことがあります。そこで坂本さんはどんな工夫をしているのか。それはもっぱら回転率を上げることでした。
実はグランメゾン(高級フレンチ)でさえ、4人席が3人埋まって0.75回転すればいいと考えています。ところが「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」はなんと4.5回転するように設定しているのです。
0.75回転の場合に比べて6倍のお客さんがやってくるため、15パーセントの家賃比率も6分の1に低下。実質は2.5パーセントです。そうして浮いた12.5パーセントを原材料費につぎ込む。この方法は衝撃的でした。
回転率を上げて家賃比率を下げるという考え方は他業種にも十分通用します。介護事業なら、デイサービスの営業時間外に別のビジネスを手がけてもいいかもしれません。坂本さんの例をもとにいろいろなアイデアが湧いてくるのではないでしょうか。
■数字の裏付けと「利他の心」で成功する
「アイデアは閃きではなく、きちんと数字で表現すること」
まさにその通りだと思います。ある経営者は「国語的発想でなく算数的発想を」と述べていました。そういう考え方は男性が得意だといわれますが、実際は男女関係なく優秀な経営者はものごとを数字で裏付けます。それがビジネスの成功の秘訣なのです。
「企業の意思決定にはハンドルの『遊び』が大切」
ここでいう「遊び」は資金的な余裕と関連しています。そもそも資金的な余裕があるほどビジネスの成功率は高くなるもの。残酷なようですが、例えばサラリーマンがなけなしの貯金をはたいて起業した......という場合の成功率は低くなります。
同じく本業の業績が悪いから別の事業を......という場合も成功率が下がります。ビジネスは常に変化する必要があるのですから、本業が好調なうちに新しい事業の準備をしておきたいものです。
「『俺のフレンチ』『俺のイタリアン』は原価率・味・労働時間に妥協せず本物を提供する」
レストランで働く料理人の多くは、規定の原価率だといい材料が使えないことに不満を抱いているそうです。しかし原価率を上げるのであれば、お店の回転率も上げて利益を確保しなければならない。この点をきちんと理解してもらうことが大事だと坂本さんは述べています。
そして坂本さんの会社にはモチベーションが高い料理人が集まっているので、他の会社が同じことをしようとしても難しいでしょう。これが「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」の参入障壁の高さにつながっているのです。
「もしフランチャイズ加盟店の経営が成り立たなくなったら、本部が買い取る」
フランチャイズというと、ひたすら加盟店を増やして本部は大儲けという悪いイメージがあります。しかし坂本さんは「もしフランチャイズ加盟店の経営が成り立たなくなったら本部が買い取る。決して不幸にしない」という強い決意をしています。このような「利他の心」が結果的に競争優位性をもたらすのです。
「人を育てる」ことを根幹に据えれば、利益はもちろんのこと組織が非常に強くなります。私にはフランチャイズというより昔ながらの「のれん分け」をしているように思えました。
―「俺のイタリアン」の成功のカギは「利他の心」だと言えそうです
坂本さんが次に意欲を燃やしているのは、ジャズライブとのコラボレーションだそうです。日本には音大を出たミュージシャンが大勢いますが、年収は平均250万円。こういう人たちをレストランに呼んで、彼らの地位を引き上げたいとのこと。まさに「利他の心」です。
坂本さんは現在73歳。以前はビジネスの世界から退くことも考えていたといいます。しかし80歳を超えた稲盛さんが京セラ、KDDIに次いで日航を再建した姿を見て、もう一度チャレンジする意欲が湧いたのだとか。かくいう私も年齢ははるかに下なのですから、負けてはいられません。
ところでたまに「自分の業種は特別だから」と言う経営者がいますが、どんな業種であれ経営の本質は変わりません。それは坂本さんや稲盛さんが証明しています。
そして優秀な経営者は「利他の心」で経営し、大きな成功を収めることができる。そんなことを教えてくれる素晴らしい一冊です。(了)