ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第125回「騙されていませんか?奨学金という名を借りた学生ローン!!」

2013年5月 7日 22:30

リスクが高いのに簡単に借りられる奨学金。あなたは騙されていませんか?


■借り手の意識が問われる奨学金制度
―今回もお金をテーマにお話しいただけますか?

前回述べたように日本人はもともと「お金は不浄なもの」という考えが強く、お金の教育を受けたり知識を身に着けたりする機会がほとんどありません。そのためいい大人でもだまされて損をする人が多いのです。

そこで今回は「奨学金」についてお話ししましょう。これは独立行政法人である日本学生支援機構が扱っています。ご存じのように経済的理由によって修学が困難な「特に優秀な学生」に無利息で貸与されてきたものです。

また借り手も今後の人生や生活設計に基づき、十分考慮したうえで借り入れを行っていました。私の同級生も2万円にするか3万円にするかさんざん悩んだ末に借りていたのを覚えています。彼は優秀で計画性のある人間なので、働き始めて数年で完済しました。

ところが最近は成績がそれほど優秀でなくても、3パーセントを上限とした利息で結構な額を借りられるそうです。中には月額8万円、時にはそれ以上のお金を借りる学生もいると聞きます。

親の経済状況が悪化してやむを得ず......という事情もあるでしょうが、実際に金利3パーセントで月額8万円を4年間借り、卒業後20年かけて返還した場合の総額はいくらになると思いますか? 機構のホームページの試算によれば毎月2万1000円程度を20年支払うことになり、その総額は500万円を超えます。

―学生は卒業と同時に約500万円の負債を背負うことになりますね

その通りです。保証人となる親が払えるのなら問題ありませんが、そんな経済力のある親がいるならもともと奨学金制度は使わないはずです。

ただしこれには貸し手の思惑も見え隠れします。銀行員だった私の父が「お金のない人間からは何をしても回収できない。なぜならどう転んでもないのだから」とよく言っていたのですが、これは40~50歳代の社会人がお金を借りて返せないときはどうやっても返せないという意味です。

しかしこれが学生=子どもだと、保証人である親がいるのでなんとか回収できます。言葉は悪いのですが「取りっぱぐれ」がないのです。しかもそれなりの金利も取れるので貸し手にとっては非常にうまみがあるのです。

さて、ここで考えてみてください。最近の就職難を考えると、大学を卒業すれば必ず就職できるとは限りません。それに20年も働き続けられますか? 女性の場合、結婚して妊娠・出産する間の支払いはどうするのでしょうか。あるいは結婚を考えていた人に奨学金とはいえ500万円もの借金があるとわかったとき、どう思うでしょうか。

■誰も触れない奨学金制度のリスク!
―現在、日本学生支援機構が奨学金を貸与している学生の数はどれくらいなのですか

約118万人です。累計では約936万人に上ります。確かに奨学金制度が教育の機会均等及び人材育成に大きく貢献してきたことは間違いありません。

しかし奨学金は貸与が終了した後にきちんと返還することが原則。そのお金はただちに後輩の奨学金として活用されるからです。

ところが奨学金の返還状況を見ると、平成21年度に返還すべき額の3983億円に対して797億円が未返還。延滞人数は約34万人となっています。このような状況を踏まえ、日本学生支援機構は返還の促進に積極的に取り組んでいます。

―どのような督促がされるのでしょうか?

本人あてに機構または機構が委託した業者から返還が督促されます。再三の督促にも関わらず返還がないと、給与や資産の差し押さえなどの強制執行も行われます。他にもクレジットカードが使えなくなったり、住宅ローンなどが組めなくなったりすることさえあります。

奨学金にはこれだけのリスクがあるにも関わらず、現在は

・大学学部生及び短大生......34.8パーセント
・大学院生......40.7パーセント
・専修学校(専門課程)生......30.2パーセント

が利用しているようです。

これには機構や学校関係者が学生に奨学金のリスクを十分に説明していないという要因もあります。それゆえ彼らの多くが「奨学金をもらう」という言い方をします。

奨学金はあくまで「借りる」もの。決してもらえるわけではありません。説明不足であるにせよその無知ぶりにはあきれてしまいます。

奨学金の返還ができなくなった人を支援する弁護士もいるようですが、教育の名のもとに社会のモラルを破壊する恐れがあることをわかっているのでしょうか。

さらに厳しい言い方になりますが、それほどのリスクを負ってまで行く価値のある大学に彼らが通っているとは思えません。今や大学全入時代と言われ、日本の大学は入学も卒業も簡単。それよりは手に職を付けることを考えたほうが有意義というものです。

―安易な気持ちで奨学金を利用するべきではありませんね

計画性もないまま奨学金を借りて負債を背負い、大学で社会に通用する価値を身に着けることもない。揚げ句の果てには「私はお金に執着がない」とでも言うのかもしれません(笑)

ここまでお話しすればご理解いただけると思いますが、この制度は「奨学金という名を借りた学生ローン」です。

お金がなければ自分で働いて学費を稼ぐこともできます。それなのに安易に奨学金を借りて返還で苦しんでいる人は、他のことでもだまされてしまう気がしてなりません。

かたや奨学金のシステムを見抜いて賢明な選択をする人もいます。お金に関わることはくれぐれも慎重に判断してほしいと思います。(了)