ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第123回「本の紹介:田中ミエ著『ダンナ様はFBI』」

2013年4月23日 22:30

学ぶことのできるエッセイ本です。


■FBI捜査官の必勝恋愛心理学
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

私が最近読んだ中で特筆すべき内容の本をご紹介します。タイトルは『ダンナ様はFBI』(田中ミエ著/幻冬舎)。軽く読み飛ばせそうな雰囲気のタイトルですが、数々の素晴らしい学びがありました。

本書は田中ミエさんと元FBIのご主人の出会いから始まります。場所は田中さんが仕事の打ち合わせで訪れたホテル。ご主人はそこでVIPの警護をしており、偶然出会った田中さんに一目ぼれしたのです。

おそるべきは、彼がその後すぐに田中さんの住所と電話番号を調べて連絡してきたこと。

田中さんがホテルに宿泊していたなら簡単だったでしょうが、そうではないのです。FBIの情報収集能力には驚かされました。それから1~2カ月に1度、定期的に手紙が届くようになったそうです。

―どんな内容だったのですか?

ご主人の近況が淡々とつづられているだけでした。田中さんの言葉によると「まるで役所からの手紙」のようだったとか。しかし定期的に送られてくるうちに、いつのまにかご主人からの手紙を心待ちにするようになったそうです。

実はこれこそがFBI仕込みの心理作戦を巧みに使った手紙だったのです。例えば「今度会えませんか?」などと書いて相手に断られてしまったら、それ以降手紙を送ることは難しくなってしまいますよね。

一方、相手に「Yes」「No」の感情を起こさせない内容にすれば、手紙を継続して送ることができます。

さらに人間は定期的なものに縛られていく習性があるそうです。つまり一定の間隔で手紙が送られてくると、ぼんやりとした期待や相手とつながっている感覚が育ってくる。

そこですかさず「会いませんか?」と言われると、簡単に了承してしまうのです。男性がこんな手を使ってきたら女性は用心しなければいけませんね(笑)

―なるほど。この方法はいろいろな場面に応用できそうです

その通りです。例えばある人と一緒に仕事をしたいと思ったら、いきなり話を持ちかけるのではなく定期的に情報を送ることから始めるといいかもしれません。

さて田中さんはご主人と結婚して出産。子どもを保育園に預けて仕事をしていました。ところがご主人から「自転車に乗りやすい服や靴のまま仕事に行ってはダメ」と厳しく指摘されてしまいます。

毎日子どもを送り迎えする田中さんは憤慨しますが、「外見はその人の状態をかなり正確に表す。プロとして生き残りたいのなら、日々の生活に追われている姿を見せてはダメだ」とご主人。

田中さんは渋々ながらも家に戻って着替えたり靴を履きかえたりしたそうです。

■人は見た目で判断するもの
―多忙な田中さんにとって大変な負担だったのでは?

確かに仕事と子育ての両立は並大抵のことではありません。しかし一流のインタビュアーとして洗練された雰囲気を保つことは大切。ご主人はプロとしての心構えを教えているのです。

「青信号が点滅しても走って渡らない」という指摘もありました。青信号が点滅しているときに走って渡る行動が習い性になると、そのうち仕事の緻密さも失って妥協するようになる。それぐらいなら立ち止まってゆったりと対応しなさい、という意味です。

さらに田中さんは「人のタイプを瞬間的に見分ける力」のトレーニングをご主人から受けました。

それは街中を歩いている女性を第一印象で「話しかけやすい人」「気位が高く話しかけにくい人」「周りに気を遣う気の弱そうな人」「仕事のできる人」の四つに分けるというもの。

人を見た目で判断するべきではないと考えていた田中さんは、少々反発を覚えたそうです。ところが結果を分析してみると、それぞれのタイプに見事なまでに共通した特徴があったのでした。

ご主人はどんな集団もこの四つのタイプに分けられるといい、田中さんが複数の人を相手にインタビューするときも非常に役立つと教えています。

―インタビューの手順を具体的に教えていただけますか?

人が何人集まろうと、最初は「話しかけやすい人」に話を振ること。次に「気位が高く話しかけにくい人」や「仕事のできる人」に振り、最後は「周りに気を遣う気の弱そうな人」に安心して話をしてもらうのです。この順番を間違えると一つのタイプに偏った内容になってしまうそうです。

私も人の外見を重視する考え方には共感します。そのため自分にパーソナルコーディネーターをつけ、人に会うときの格好に最大限気を配っています。

それが通じてかある上場企業の社長さんから「医者には外見に気を使わない人が多いが、君は合格だ」と言われたときはうれしかったですね。

―時には第一印象を考慮して戦略的に装うことも大事ですね

賛否両論あると思いますが、とても面白い考え方だと思います。第一印象に関連したところでは「人間はどんなに成功して自信があっても、初対面の人間には緊張する。だから時間差で2度ほほえみかけろ」というご主人の教えもあります。やはり田中さんは鏡の前で何度も練習させられたそうです。他にも

「家族の話をして相手の信頼を勝ち取れ」
「体がシャープでなければ、自分の言葉もシャープに聞こえない」
「自分に投資しなければ子どもにも投資できない。投資は自分に7割、子どもに3割。自分への投資は必ず子どもに反映する」

など、単なるエッセイに収まらない素晴らしい内容が盛りだくさんです。特に仕事と家庭を両立させたい女性におすすめの本です。

ちなみにこの本の最後に田中さんから幻冬舎の担当編集者へあてた謝辞が書かれているのですが、その名前を見てびっくりしてしまいました。実は私も幻冬舎から本を出す予定があり、私の担当者と同じ人だったからです。

本書は偶然手に取ったもので、彼からすすめられたわけではありません。こんなに面白い本を作った人と一緒に仕事をしていると思うと喜びもひとしおでした。

私の本のタイトルはまだ検討中ですが、決まり次第みなさんにお知らせしたいと思います。(了)