ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

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認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。
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インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第120回「グループホームの耐火・耐震基準について」

2013年4月 2日 22:30

今年2月8日に発生した、長崎市の認知症高齢者グループホームの火事から、耐火・耐震基準について考えます。


■なぜグループホーム火災が頻発するのか?
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

認知症の方が生活するグループホームの耐火・耐震基準についてです。2013年2月8日、長崎市のグループホーム「ベルハウス東山手」から出火し、4階建て約530平方メートルの一部を焼き4人の方がお亡くなりになりました。犠牲になられた方々のご冥福をお祈りします。

同様の火災は過去にもありました。

06年......長崎県大村市のグループホーム
10年......札幌市のグループホーム

それぞれ7人の方が亡くなっています。グループホームには介護度の高い入居者が多く、火災が起きた際の死者数はホテルや旅館、病院などに比べて圧倒的に多くなっています。

特に夜間帯は1人の介護者が複数の入居者を担当するので、避難誘導が大変難しいのです。しかしながら、このような惨事が繰り返される現状には終止符を打たねばなりません。

―介護者の人員不足が原因なのでしょうか?

確かにそれもありますが、建物の構造自体を見直すことが重要です。06年の長崎県大村市のグループホーム火災のあと、建物の安全性について国から厳重な指導がありましたが、まだ十分に生かされていないようです。

現在運営されているグループホームの中には、資金の問題などから中古の建物を改修して使っているところも少なくありません。

長崎県大村市のグループホームもそうでした。しかも外壁及び内壁は鉄筋コンクリート造、内部の間仕切り等は軽量鉄骨造、屋根及び小屋裏回りは木造......とさまざまな構造体が混じった「混構造建築物」だったのです。

たとえ一部でも木造なら、木造の建物と同じ防火上の安全配慮が必要です。ところが長崎県大村市のグループホームは心身にハンディキャップがある人たちの施設でありながら火災に対する十分な配慮や設備がなかったようなのです。

そして今回の長崎市のグループホームも「混構造建築物」でした(1~3階が鉄骨造、4階が木造)。「混構造建築物」の施設には木造並みの耐火性能を備えるよう徹底的に指導する必要があります。

耐震対策も忘れてはいけません。一部が強固な鉄筋コンクリート造で、その他は簡易な木造の「混構造建築物」は大変地震に弱いのです。

―「混構造建築物」の施設は多いのでしょうか?

介護保険が始まったばかりの頃は施設の数が少なく、国も「混構造建築物」を許可していたのです。とはいえ、もはやこれらを黙認していてはいけないと思います。

床面積と法的規制にも問題があります。例えばグループホームは消防法では「福祉施設」として扱われ、延床面積が300平方メートル以上の場合は自動火災報知設備の設置が必要となっています。

ところが自動火災報知設備の設置を逃れるために面積調整を行って300平方メートル以下にする設計・施行者がいるのです。長崎県大村市のグループホームもそうでした。

自動火災報知設備に次いで重要なのがスプリンクラーです。これは長崎県大村市のグループホーム火災以降に設置が義務付けられましたが、なぜか275平方メートル未満の施設には設置義務がありません。

―なぜそのような抜け道があるのでしょうか?

スプリンクラーの設置には多額の費用が必要で、小さな経営母体には非常な負担になるからです。私のグループホームでも1千万円を超えました。ただし一部助成金が出ます。長崎市のグループホームにはスプリンクラーがなく、それが大惨事を引き起こしたのです。

耐火・耐震の観点から、私は「混構造建築物」のグループホームは禁止したほうがいいと思います。そして面積に関わらず「自動火災報知設備」と「スプリンクラーの設置」を義務付けること。それを新規だけでなく現在運営されている施設にも適応すべきです。

―現在「混構造建築物」を使用している施設にとって、かなり厳しい条件では

資金の工面はもちろん、工事の間は入居者をどこに移せばいいのかという問題もあります。「混構造建築物」を使っている施設は入居費用が安く、入居者も容易に施設を変わることができません。グループホームの運営母体が小規模だと、難しい対応を迫られると思います。

しかし、人命がかかっている問題です。これぐらいの英断をしなければまた同じことが繰り返されるでしょう。

■行政指導を待つのではなく、先手を打て!
―これらの問題には縦割り行政の弊害もあるとか

消防法に抵触する施設でも、介護保険では認められるというケースもあるのです。それが今回のような惨事を引き起こす要因になっていることは否めません。

そして国は耐火に厳しくなっていますが、耐震については表立って指導していません。耐震に言及すれば「混構造建築物」を禁止せざるを得ないからです。しかしそれも時間の問題。介護事業者は先手を打っておく必要があると思います。

みなさんが介護施設を選ぶときも、耐火・耐震性能に目をつけてみるといいでしょう。入所費用が安いところはたいてい「混構造建築物」で、小規模な経営母体が手がけていることが多いです。

―そもそも「混構造建築物」を許可した行政の方針に問題があったのでは?

介護保険には「被介護者の今までの生活を尊重する」という理念があったのです。例えば古民家などを改造してあまり環境を変えずに介護を受けられるようにしよう、といった具合です。ただしそれと耐火・耐震性能は矛盾します。

耐火・耐震に弱くても昔ながらの日本家屋で暮らしたいのか。今までとは違う環境になるけれどもきちんと対策がなされた施設に入居するのか。そこはみなさんの選択にゆだねられています。

とはいえこれから施設に入居してくる団塊の世代はそれほど日本家屋に思い入れはないでしょうから、事業者は新築で対応すべきだと思います。それができないのなら撤退したほうがいいでしょう。厳しいようですが、私たち介護事業者は人命を預かっているのですから。(了)