ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。
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インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第112回「人生の最期をどこで迎えますか?」

2013年2月 5日 22:30

「多死時代」を迎えようとしている今、自分自身がどこで亡くなるのか、もしくは亡くなりたいかのイメージを持って、ご家族と話し合っておくことをお勧めします。


■「畳の上で......」は昔の話
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

唐突ですが、この国では1年に何人の方が亡くなっているかご存じですか? 現在、1年間で約108万人が亡くなっています。厚労省による『死亡場所別、死亡者数の年次推移と将来推計』という資料によると、2030年には約160万人が亡くなると予想されています。まさに死亡者数が急増する「多死時代」がやって来ると言えるでしょう。

―死亡場所としてはどこが多いのでしょうか

多くの人々の希望とはうらはらに、今のところ自宅で最期を迎えらえるのは全体の10パーセント程度。約12万人と言われています。残りの9割近くは病院で亡くなっています。

ところが厚労省の予想通りに1年間の死亡者数が160万人に増えると、病院だけでは受け入れることができません。

そこで厚労省は「自宅で亡くなる人を1.5倍に増やす」という方針を打ち出しました。しかしもともと自宅で亡くなっているのは12万人程度。それが20万人に増えても「焼け石に水」です。

核家族化が進んだ今、自宅で家族に看取られて亡くなることはますます難しくなるでしょう。これは実際に在宅医療を行っている私たちの実感でもあります。

―病院を増やすことはできないのですか?

医療費が増え続けるなか、厚労省は病院の数を増やすつもりはないようです。2030年の「多死時代」においては、自宅で亡くなることが難しく、病院の数も足りないというのが現実なのです。

そのため次の受け皿として想定されているのが、有料老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者住宅といった民間による介護施設および高齢者住宅です。厚労省が推計した2030年の死亡場所別死亡者数でも、

自宅......20万人
医療機関......89万人
介護施設および高齢者住宅......56万人

となっています。この数値から、厚労省は増加した死亡者分は介護施設や高齢者住宅で看取ってほしいと考えていることがわかります。

―長谷川さんは、厚労省の考えをどう思いますか?

日々在宅医療に従事している私も、この方針には納得しています。私が開業したのは2000年4月、ちょうど介護保険が始まったときでした。当時は介護施設や高齢者住宅がほとんどなく、当グループによる訪問診療と訪問看護による看取りも最初は自宅だけでした。今でも自宅への訪問件数は年間2000訪問程度で推移しています。

しかし5、6年前からグループホームや有料老人ホームといった介護施設からの依頼が増えてきました。2000年にはゼロだった訪問件数が今や年間2800訪問になり、自宅患者数を超えています。介護施設や高齢者住宅にシフトしている点は、まさに厚労省の予想通りです。

■最期を看取るのはヘルパー
―この動きは介護事業の展開を考えるうえで見逃せない要素ですね

当グループも行っている訪問看護はもっとも影響が大きいです。例えば患者さんの自宅で訪問診療を行う場合、介護から医療まで幅広く対応できる看護師は医師のパートナーとして必須です。

しかし一部の住宅型有料老人ホームを除き、急増する介護施設や高齢者住宅には訪問看護が入れません。

自宅で診てもらえる患者さんが減少傾向にあるなら、経営者としてもこの事業が拡大する可能性は低いと判断せざるを得ません。

そこで今後は看護師よりも経験豊かな介護職に期待がかかります。ただし2級ヘルパーではなく1級ヘルパーや介護福祉士です。彼らが経験を積み、医療度が高くなった利用者さんに対応することが求められます。

―ますます介護職の責任が重くなりますね

訪問看護が入れない介護施設や高齢者住宅で医療のバックアップをするのは経験豊かな介護職。それは間違いありません。

そして私たちも2030年に向けて、介護施設や高齢者住宅も死に場所の一つとして考慮しておく必要があります。

もはや病院の数が増えることは期待できず、看護師も不足しています。その点私たちが「介護施設や高齢者住宅で最期を迎えることもあり得る」と理解すれば、貴重な医療資源・介護資源を無駄なく使うことができるはずです。

―自分の最期を介護職に任せることに不安を抱く人もいるのでは?

介護職のレベルは、以前とは比べ物にならないほど向上しています。現在介護職を目指している若者が現場に出て経験を積み、リーダーとなる2030年頃は看護師と同等になっているでしょう。

これからは人が亡くなる場所として、病院の他に介護施設や高齢者住宅という選択肢もあることを知っていただきたいと思います。(了)