ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第100回「文章を書いて脳を活性化させる・・・日記編」

2012年11月 6日 22:30

インプットされた情報に感情を付随させてアウトプットすることで記憶に留めることができる、それが日記です。


日記と脳の不思議な関係
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

脳の専門家として、文章を書くことは脳の活性化にとても有効だということをお話ししたいと思います。ただし今回はブログのように世間に発信するものでなく、個人が書く昔ながらの日記についてです。

私は2000年に開業して以来、13年間1日も休まず日記をつけています。使用しているのはいわゆる「5年日記」。1ページに5年分の日記が書けるので、文章の量はせいぜい5行程度です。私の実体験を踏まえて、日記の効用をいくつかご紹介しましょう。

まずは1日をじっくり振り返られることです。帰宅するなりバタンと寝てしまい、1日を反省するひまもない人は多いのではないでしょうか? あるいは必死に1日を過ごしたのに、振り返ってみると思い出せないことが多いと気付くかもしれません。

日記を書くときは1日を回想しますが、回想は脳の働きにとても有効です。心理療法の一つに「回想療法」があるほどです。

「人間は毎日、『情報処理』をしている」と言った人がいます。私たちはいろいろな活動をしているようでも、結局は情報のインプット・アウトプットをしているにすぎないというのです。その上情報過多の現代は、インプットが過剰になっています。そんな毎日の中でパンクしそうになっている頭を整理するのが日記です。

―情報のインプット・アウトプットのバランスをとるということでしょうか?

その通りです。1日を回想すると、脳はインプットされた情報を整理し、いらないものを捨てることができます。たとえわずか5行の日記でも、アウトプットすることが大事です。

情報のインプットばかりだと、脳は防衛反応として情報を忘れようとします。それが記憶力の低下につながるのです。一方日記を書いて情報を整理すると、脳に大事なものだけが残り、長期間記憶が保持されます。

そもそも日記を書くときは、1日に起こったことを思い出し、頭を整理してまた思い出す......という作業を繰り返します。情報のアウトプットは反復と表裏一体であり、それゆえ重要な情報をしっかり覚えておくことができるのです。

情報と感情を結びつける
―日記を書くときは、どんなことを心がけるとよいでしょうか?

情報に感情を加えることが重要です。例えば過去のできごとを思い出すとき、楽しい、悲しい、苦しいなどの感情が伴っているものほどよく覚えているのではないでしょうか?

突然ですが私は仲間内でも評判の「雨男」です。最近は「嵐を呼ぶ男」と呼ばれるようになりました。経営者仲間と香港に行ったときは、強烈な台風のために地下鉄・タクシーが動きませんでした。

強風にあおられる高層ホテルの恐怖、どこにも出かけられない残念さといった感情が強烈に植え付けられたせいか、参加者全員がその旅行をいまだにはっきりと覚えています(笑)

同じく情報に感情を付随させて日記を書くと、記憶が強固になります。それが脳の活性化につながるのです。

―日記を読み返すことも楽しみの一つですね

「過去の同じ時期に起こったこと」はとても参考になります。不思議なことに人間は毎年ある時期に同じことをしたり、考えたりする傾向があるのです。

例えば当クリニックを年1回訪れる患者さんのカルテを見ると、昨年も同じ日、もしくは数日ずれた日に受診していたということがよくあります。

もちろん患者さんは全くの無意識。「昨年も同じ日に同じ症状でいらっしゃいましたね」とお知らせすると、非常に驚かれます。これは多くの開業医さんが感じていることだと思います。

経営者にとっても、1年前の自分が何を考えていたかを知ることはとても参考になります。

私はかつてあるスタッフの問題行動に頭を悩ませていました。そんなときふと1年前の日記を読んでみると、やはり同じ悩みが書き記されていました。1年前から一向に改善されていないのであれば、もはや検討の余地はありません。長い間悩みの種でしたが、ようやく退社していただくという決断ができました。

もちろん悪いことばかりではありません。日記を読み返して売り上げや利益をあげるのに苦労していた頃を思い出すと、改めて今を支えてくれているスタッフや環境に感謝の気持ちがわいてきます。

事業がうまくいっていると、初めからそうだったような錯覚に陥りがちです。日記はそんな過信を戒めてくれます。

日々情報の嵐の中で奮闘する経営者にとって、自分自身と対話できる日記の効果は大きいはず。「日記=夏休みの宿題」ではなく、経営の一手法と考えることをおすすめします。(了)