ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

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認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。
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インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第99回「本の紹介:松田充弘著『しつもん仕事術』」

2012年10月30日 22:30

質問力の重要性を実感することが出来る本です。


適切な質問で病気を治す!
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

松田充弘さんの『しつもん仕事術』(日経BP社)という本を紹介するのですが、その前に私のクリニックを訪れた患者さんを例にとってお話ししたいと思います。

今年(2012年)の夏のことです。当クリニックの外来には「暑い暑い! 今年ほど暑い夏はなかった!」と声を荒らげる人がよくみえました。しかし本当に過去に例を見ないほどの暑さだったのでしょうか? 

私は13年前に開業してから、毎日欠かさず日記をつけています。そこで今年の夏の日記を確認すると、「梅雨の雨が長く、なかなか暑くならない」と記してありました。お盆前後から日中は暑くなりましたが、それでも朝晩は過ごしやすかったのです。東海地方の気象データを見ても、平年並みとなっていました。

つまり「暑い暑い!」と声を荒らげていた人は、具体的な数字に裏付けられた数学的な発想ができていなかったのです。

同じく「身体中が痛い」と訴える患者さんが来院することがあります。気持ちはわかるのですが、「身体中」という部位はありません。そこで医師は「身体中が痛いとのことですが、頭は痛いですか? 右の肩は? 左の肩は? ひざや腰は?」と質問していきます。

―医師は「身体中」という言葉を分解し、焦点を絞っていくのですね

患者さんが痛む部位をきちんと認識してから治療することが大切なのです。これは一種のコーチングとも言えるでしょう。

ところで全国的に有名な「痛みをとる診療所」が京都にあることをご存じですか? そこの先生の専門は整形外科でも麻酔科でもなく、精神科だそうです。特に変わった治療をするわけではないのですが、徹底して患者さんの話を聞き、適切な質問を投げかけることで治療効果を上げているのです。

さてここで松田充弘さんの『しつもん仕事術』です。この中で松田さんは「人にものを教えることはできない。自ら気付く手助けができるだけだ。賢明な人は『正しい答え』を与えるのではなく、『正しい質問』を投げかける」と述べています。

パナソニックの創業者である松下幸之助の口ぐせは「君、どない思うんや?」でしたが、彼も質問術を身に着けていたのだと思います。

―適切な質問には、相手を尊重する気持ちが含まれているように思います

その通りです。さらに松田さんは部下やスタッフへの言葉のかけ方には

・事実のみを伝える
・事実+感情を伝える
・事実+感情+称賛を伝える

の三つがあり、意識して「事実+感情+称賛」を伝えるようにすすめています。

例えば新入社員が上司から頼まれていた書類を完成させたとき、どんな言葉をかけられたらうれしいと思うでしょうか?

①「書類ができたんだね」......事実のみ
②「書類ができたんだね、助かったよ」......事実+感情
③「書類ができたんね、助かったよ。よくやってくれたね」......事実+感情+称賛

きっと多くの人は③を選ぶことでしょう。ねぎらいや感謝の言葉は部下のやる気を引き出し、成長を促す効果があるのです。ちなみに「ゆとり世代」にとても効果があるそうです(笑)

答えは「自分の中」にある
―ポジティブな面に注目し、具体的な表現をすることが大切なのですね

なかなか仕事の成果が出ない部下がいると、「どうしてできないんだ!」などと問い詰めてしまいがちです。「頑張ります」という言葉は返ってくるものの、あまり改善がみられずいらだっている上司も少なくないでしょう。しかしこのときも「何を頑張るのか」を具体化する問いかけが大事です。

「うまくいかないとしたら、何が原因だと思う?」
「もし何の制限もないとしたら、どんなアイデアがある?」

と質問し、相手から答えを引き出すよう心がけてください。ひょっとすると画期的なアイデアが出てくるかもしれません。松田さんの「尋問は誰のためにもならない」という言葉はとても印象的でした。

さらに
・1分間の傾聴ワーク(聞き手はあいづちを打つのみ)
・1分間相手をほめまくるワーク
・相手との共通点を見つけ出すワーク
・何も制約がないという前提で、アイデアを集めるワーク

なども紹介されており、いずれもコミュニケーションの円滑化に役立つと思います。

―松田さんが投げかける質問は、考えることの面白さを教えてくれるようです

最後の「読者への質問」も非常にユニークでした。以下に抜粋をご紹介しましょう。

・あなたの会社がなくなったら、誰がどのように困りますか?
・今、何がうまくいっていますか?
・10年後何をしていますか? 
・20年後あなたはどうなっていたいですか?
・今、あなたに起きている「いいこと」は、誰とどんなご縁があったから起きているのですか?
・お客様はどんな気持ちになりたくて、あなたの会社のサービス・商品を購入するのですか?
・誰と協力すれば、もっとお客様を増やせますか? 
・最近どんな人から感謝されましたか?

これらは自分を見直すきっかけとなるとてもいい質問ではないでしょうか。私も実際に書き出してみたところ、頭の中がすっきりと整理できました。

本書は「質問力」の重要性を実感させてくれる良書です。みなさんもぜひ手に取ってみてください。(了)