ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第97回「プロの力2【講演家】」

2012年10月16日 22:30

講演家の伊藤伸さんから教えていただいた、講演についてのポイントをお話します。


講演は話す前から勝負あり
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

経営者でなくても、人前で話す機会は意外と多いものです。そこで「プロの力を借りる」2回目は講演家についてお話しさせていただきます。

私は年間50回ほど講演を行っていますが、初めの頃は「やみくもにしゃべっていてもそれなりに受けているからいいのかな?」と思っていました。しかしきちんとトレーニングを受けたことがなく、自信を持てずにいました。

そんなとき知人からプロの講演家であるいとう伸さんを紹介していただき、個人指導を受けることになったのです。

―どのような指導でしたか?

私の講演のDVDをいとうさんに見ていただき、その後1対1でトータル4時間みっちり指導していただきました。いとうさんからは非常に多くを学んだのですが、特に大事なことをいくつかご紹介します。

最も注意を払うべきことは講演の導入です。例えば慣れていない演者は檀上に立ったとたんに話を始めてしまいます。確かに緊張しているとすぐに話をしたくなってしまうのですが、まずは姿勢を正し、ゆっくりと会場全体に視線を送ります。

それから丁寧に「本日はお招きいただきありがとうございます。医療法人ブレイングループの長谷川でございます」と自己紹介を始めると、聴衆は「この人はひと味違うな」と話を聞く態勢になります。

講演を聞き慣れている人は、ただでさえ演者を厳しい目で見ます。そのため謙遜であっても「聞き苦しいこともあろうかと思いますが......」などと自分を卑下することは禁止です。むしろ「私はこれから聞くに値するお話をします」と堂々としていたほうがいいのです。

ところで講演の成功要因を単純な比率で割ると「視覚(見た目)5割」「聴覚(音声)4割」「内容1割」になるそうです。内容がたったの1割とは衝撃的ですが、それを逆手に取ると聴衆に満足してもらえる話ができるのです。

―視覚とはどういうことですか?

演者の身振り手振りのことです。これは聴衆の注意を引く効果があり非常に重要です。

とはいえ漫然と動くとフラフラして見えるので、左右どちらかの足を軸にします。そうすれば体を大きく動かしてもブレなくなります。ちなみに私は左足を軸にしたほうがいいとアドバイスをいただきました。

また演者が会場を見渡す視線も大事です。例えば演者が右側の前方、中央、後方、さらに左側の奥、中央、手前......と視線を動かすと、聴衆は演者の顔をいろいろな方向から見ることになります。これが視覚の刺激になるのです。どんなに内容がよくても、演者が正面を向いたまま話していると聴衆は退屈してしまうので注意してください。

また講演会場はいろいろなタイプがありますので、前もって下見しておくことも大切です。もちろん前回紹介したスタイリストのコーディネートによる服も演者の魅力を増します。

・身振り手振り
・視線
・服装

この三つを意識すれば、演者のビジュアルイメージは格段によくなります。

講演内容よりも大切なこと
―聴覚について教えてください

声の大きさはもちろん、抑揚をつけることが大事です。声が小さくて聞き取りにくいことは論外ですが、たまにマイクの調子が悪いケースもあるので注意が必要です。

私は過去に、途中でマイクの調子が悪くなって拡声器で講演したことがあります。拡声器は声の抑揚をつけることができず、全く盛り上がりませんでした(笑)主催者にあらかじめマイクの調整をしてもらうことを忘れないようにしましょう。

―聴衆の視覚と聴覚を刺激すると、「面白い講演」と感じてもらえるのですね

その通りです。いとうさんをはじめとするプロの講演家はその点をよく理解しています。個人レッスンのとき、私の講演ネタをいとうさんがお手本として話してくださったことがありました。いとうさんは認知症の専門知識がないにも関わらず、私が話すよりずっと面白く説得力がありました。

「さすがプロ!」と感心しきりでしたが、ショックを受けたことも事実です。「視覚」と「聴覚」をフルに活用すれば、たとえ専門外の内容でも聴衆を魅了することができるのです。

とはいえ「内容1割」と知ってから、資料をつくるときに必要以上に気負わなくなったことはよかったと思います。以前は一字一句にこだわってギリギリまで資料を提出できなかったのですが、「細かいことよりも元気に話すことが大事だ」とわかってずいぶん楽になりました。

―長谷川さんは講演をどのような構成にしているのですか?

講演は90分で依頼されることが多いので、3分のネタを30本話すイメージです。そして必ず与えられた時間内に終わらせます。講演は最後の15分が勝負。声の大きさや抑揚を含め、暗唱できるほど準備しています。

どんなに素晴らしい講演でも、時間を延長すればその価値は半減します。反対に時間内でピタッと決まると、聴衆は「いい講演だった」と思うものです。聴衆の貴重な時間をいただいているのですから、この点は肝に銘じなければいけません。

ちなみに私は講演を1分単位で調整できるようになりました。鳥越俊太郎さんと講演したときも私の基調講演のあとにシンポジウムが控えていたので50分ジャストで終了しました。まだまだ講演のプロとは言えませんが、かなり慣れてきたと思います。

―「講演」と「セミナー」の違いを教えていただけますか?

講演は「いい話・感動する話」を聞きに行くものです。そのため同じ講演に何度も足を運ぶ人もいます。一方セミナーはあくまで有益な情報を伝えることが主です。

私は講演でパワーポイントを使いません。なぜなら聴衆の視線がパワーポイントの画像と私に分かれてしまい、ビジュアルで引きつけることが難しくなるからです。講演は身振り手振りのみに徹したほうがいいと思います。

かたやセミナーは短い時間で情報を伝えなければならないので、パワーポイントが有効です。みなさんも講演やセミナーを依頼されたときは、状況や対象に応じて使い分けてみてはいかがでしょうか。(了)