ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

日経健康セミナー21「ストップ ザ ボケ!~がんばらない介護を実現するために~」4

2012年9月25日 22:30

日経健康セミナー21福岡講演の模様をお届け。今回は「医者が書く診断書&書く手当」
についてです。


医師は診断書のド素人!?
―今回はどんなお話しをしていただけるのでしょうか?

みなさんもきっと驚かれることでしょうが、医師は診断書の書き方に関する教育を受けていません。しかも診断書は頼まれて書くものであり、医師が進んで提案するものではないと思っています。それにも関わらず医師の診断書が果たす役割は非常に大きいのです。

例えば介護保険サービスを利用する前提として要介護認定を受けなければいけませんが、それには適切に記載された主治医の意見書が必要です。

重度医療(重度心身障害者医療費助成制度)や障害年金・特別障害者手当などの給付を受けるときも、医師が十分に配慮して記載した診断書が不可欠。

しかしながら有名な大学病院でも「社会資源を活用して患者さんの生活を守る」という考え方は浸透していません。診断書の書き方について深い知識を持っていない医師がほとんどという現状では、患者さん側から医師に働きかけることが大切です。

―介護生活を乗り切るためには、私たちが進んで知識を身に着けなければいけないのですね

その通りです。そこで「知っておくとお得な情報」をお教えしましょう。
認知症による認知機能障害以外にも幻覚・妄想などが出現するレベルであれば、精神障害者保健福祉手帳が交付される可能性が高いことはご存じですか? 

この手帳が交付されると原因疾患に関わらず全ての医療費が無料になります(平成18年10月より)。このメリットはかなり大きいです。ちなみに精神障害者保健福祉手帳の申請に必要な診断書を内科医が書いても問題はありません。

65歳未満で認知症になり、就労できなくなったときは障害年金が強い味方です。あくまで概算ですが、平均標準月額報酬が30万円で子どもが2人いるサラリーマンの場合、障害等級1級で月額約19万円。2級で月額約16万円支給されます。

―年金というと、いわゆる老齢年金しか頭にありませんでした

確かにそういう人は多いです。そもそも老齢年金は障害が残って就業できなくなったときの障害年金、自分が亡くなったときの遺族年金があったうえで支給されるのですから、「自分が払った額より少ない」と文句を言うのはお門違いです。私は厚生労働大臣ですらこの点を明らかにしないことが不思議でなりません。私たちもこうした仕組みを知らずに文句を言うべきではないと思います。

そして特別障害者手当は「精神又は身体に著しい重度の障害があるために、日常生活において常に特別の介護が必要な20歳以上の在宅障害者に支給される手当」で、手当月額は2万6440円です。これは在宅で介護されている認知症末期の方に有効です。

注意点は介護保険施設である特別養護老人ホームや老人保健施設に入居していると対象にならないこと。一方、在宅サービスに区分されるグループホームや有料老人ホームに入居している場合は該当します。

そして要介護認定を受けている人は、確定申告時に障害者控除や特別障害者控除が受けられる自治体があることを忘れてはいけません。これは身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳を持っていなくても大丈夫です。

もらい忘れにご注意を!
―控除に該当する人は大勢いるのでは?

私がこの点について新聞に投書したところ、多くの人から感謝の言葉が寄せられました。それだけ世間に知られていない制度だということです。国はもっと積極的に情報を発信するべきだと思います。

最後は民間の生命保険について。実はほとんどの生命保険では高度障害に認定されると死亡時と同じ保険金が支払われます。つまり、「生命保険が死ななくても受け取れる」わけです。

高度障害の基準はいくつかあるのですが、認知症の場合は「中枢神経系・精神または胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの」という基準を満たせば受給可能です。

―自分が生きているうちにまとまったお金がもらえると助かりますね

この知識を得ることによって、介護生活に少しでも余裕が生まれれば幸いです。さらに高度障害が認定されると、住宅ローンも免除されます。これを知っているか否かで負担にかなり差が出てくることでしょう。

さらに認知症で判断力が低下している場合は成年後見人をつける必要があります。悪徳業者にだまされないためにも申請をおすすめします。それほど手続きは難しくありませんので、ぜひ活用してください。(了)