ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

日経健康セミナー21「ストップ ザ ボケ!~がんばらない介護を実現するために~」3

2012年9月18日 22:30

日経健康セミナー21福岡講演の模様をお届け。今回は「認知症には段階がある」
「周辺症状のコントロール」についてです。


認知症に効果的な薬物療法とは?
―今回は認知症の段階について解説していただけますか?

始めは早期認知症といいます。例えば腰痛や眼科の手術でひと晩入院したお年寄りが、病院で大混乱に陥ってしまった......という話を聞いたことはありませんか? 

実はこれこそが早期認知症の症状です。帰宅するとすぐ治るので見落とされがちなのですが、認知症専門医からすると明らかな兆候だと言えます。

さらに進行すると物忘れが激しくなるなどの中核症状になります。この段階になるとCh-E(コリンエステラーゼ)阻害剤のアリセプト、レミニール、リバスタッチ/エクセロンパッチ、もしくはNMDA受容体拮抗薬のメマリー、アマンタジンなどを使った薬物療法が考えられます。

「認知症の薬は進行を止めるだけ」という医師もいますが、それは認知症専門医でない人が言っているのです。そもそも今は認知症が専門でない医師が認知症を診断する時代ではないと思います。

認知症の薬は神経の伝達を助けるので、中核症状の段階で神経細胞が残っていればきちんと効果が出ます。

―さまざまな種類の薬があるのですね

アリセプトしかなかった時代を引きずってか「どれも一緒」という医師もいますが、とんでもない。患者さんの状況によって使い分ければ効果が出ます。特にリバスタッチ/エクセロンパッチはこれから評価が高まってくると思います。

―それはなぜですか?

以前この薬をほとんど寝たきりだった患者さんに使用したところ、4カ月後には「こんにちは」とあいさつできるようになり、さらに2カ月経つとおしゃべりするようになったからです。これまで何の反応もなかった人が著しく回復した姿を見て、大変驚きました。

ある認知症専門医の会合に集まった医師たちも同様の効果があったと報告していました。もちろんすべての人にあてはまるわけではありませんが、今後さらに注目されると思います。

さて、中核症状が進むと幻覚や妄想を見る周辺症状の段階に至ります。ここまでくるとコントロールすることが難しいように思えますが、漢方薬の抑肝散、メマリーなどが効果的です。メマリーはこれまで100人以上の認知症患者さんに使用しました。患者さんのご家族からも「薬のおかげで穏やかになりました」とよく感謝されます。

自宅での介護がいいとは限らない
―薬が効くとずいぶん介護が楽になるでしょうね

認知症患者さんは好きで幻覚や妄想を見ているわけではありません。また「幻覚や妄想さえなければ普通の生活が維持できるのに......」と思っているご家族も多いです。

それでも効果が見られない場合は少量の抗精神病薬を使用します。しかしそうまでしても在宅生活が不可能なときは施設を利用することも選択肢の一つになります。

―施設へ入所させることに抵抗を感じるご家族もいるのでは?

認知症介護は単純ではありません。それぞれ細かい段階があるのです。そのためあえて医師が「これ以上自宅で介護することはやめてください」と言うときもあります。

施設に入所させることは怠慢ではないかと悩むご家族も多いのですが、介護する人が倒れる前に介護サービスや施設の利用を考えるべきです。

必ずしも自宅で介護することが善で、施設に入所することが悪とは限りません。状況によっては施設に入ったほうが幸せなケースがあることも理解していただければと思います。(了)