ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第86回「『計画無くして自由なし』...究極の計画遺言作成」

2012年7月31日 22:30

経営者で、自分自身や家族のことが手つかずの方に是非勧めたい
のが、『遺言作成』です。



遺言は資産家だけが作るもの?
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか

前回、江上さんの著書から「計画無くして自由なし」という言葉を紹介しました。そこで私がおすすめするのは「遺言作成」です。ビジネスの事業計画を立てる経営者は多いと思いますが、個人・家族に関しては手つかずになっているのではないでしょうか。

ところが「私は遺言を作るほどの財産はない」と言う人が必ず出てきます。正直なところ、この言葉にはうんざりしてしまいます。相続人同士がもめるケースの4分の3は相続財産が5000万円以下。遺言はお金がないから必要ないというたぐいのものではありません。

そうかと思うと、数百億、あるいは数千億円以上の年商を上げている企業の創業者でさえ遺言を作っていないことがあります。突然自分に何かあったらどうするのでしょうか? 家族はもちろん、従業員・社会への責任問題でもあります。

―まだ遺言は身近ではないのかもしれませんね

時には「個人的に遺言は作っている」と言う人もいます。しかし、個人が作成する遺言は「自筆証書遺言」といい、不備があると無効になることに注意してください。

「自筆証書遺言」は全文と年月日および氏名を自書(ワープロ不可)・押印し、遺言者が死亡した後に家庭裁判所で検認手続きをする必要があります。

形式の不備があったり内容が不明瞭だったりすると、後日トラブルになる恐れがあります。「自筆証書遺言」は誰にも知らせず作成できるメリットがある一方、偽造・隠匿などが懸念されます。したがって経営者には「公正証書遺言」の作成をおすすめします。

―「公正証書遺言」とは何ですか?

公証役場において2人以上の立会人(配偶者や子どもは不可)のもと、遺言者が遺言内容を公証人に口述し、公証人が作成するものです。

「公正証書遺言」のメリットとしては内容が明確で、証拠力が高く安全確実であること、偽造・紛失の心配がないことです。デメリットは立会人が必要であることと費用です。

私は妻を立会人にしようと考え、昨年(2011年)の遺言書作成時に「妻を同席させてもいいですか?」と尋ねたところ、「相続人の立ち会いはダメです」と強く言われました。考えてみれば当然なのですが「これが公正証書を残すことなのだな......」と改めて感じました。

また、何度も「この内容でいいですか?」と聞かれました。当時46歳という年齢で遺言を作成する人はたいへん珍しく、どうやら私は妻以外の女性に財産分与するつもりなのではと勘違いされていたようです。

しかし、働き盛りの年齢だからこそ遺言を作成するべきだと思います。私と違って家族以外の人に何かを残したいときも遺言は有効です(笑)

―費用はどれくらいかかるのでしょうか?

遺言作成時に30万円程度、遺言執行時には相続財産に応じた手数料がかかりますが、それによって得られるメリットを考えれば安いものです。以前も申し上げましたが専門家に払うお金を惜しんではいけません。

遺言作成のプロはどこにいる?
―遺言作成の際、どこに相談すればよいのでしょうか?

候補としては、士業と信託銀行が代表的です。遺言における相続はいわば経営の集大成。法務・税務・不動産等の知識や情報が不可欠です。

司法書士に頼む場合も多いのですが、不動産の登記には便利でも全体を取りまとめる役は果たしてくれません。会計士は相続税の計算をするときには頼りになりますが、遺言に精通している人はわずか。弁護士は税務の知識に乏しい傾向があります。ちなみに行政書士は論外です。

―なぜ士業をすすめないのですか?

彼らは個人事業主が多く、年齢が経営者と同じもしくは年上だと、肝心な時に死亡・引退してしまう可能性があるからです。

これらを考慮すると、相続に精通している信託銀行がいいと思います。信託銀行が中心となって会計士・弁護士・司法書士等をコーディネートするため非常にバランスが良くなります。当然ながら信託銀行が法人である点も大きな魅力です。

―経営者は自分がいなくなった後のことも考えておかなければいけないのですね

事業を始めたばかりのとき、経営者は収益を上げることに集中します。とはいえ突然の病気や事故で死亡、もしくは高度障害になる可能性は否定できません。

そのような事態を想定した経営をするために、年齢に関わらず遺言の作成をおすすめします。経営者はそこまで責任を持って初めて自由を得られるのです。遺言を作って自分に何が足りないかを知り、それを補う準備をすれば心の安らぎが得られます。

―遺言を作成する際のポイントを教えてください

遺言は一度に完璧なものを作り上げる必要はなく、毎年作り直すと考えてください。作り直す際の費用は5万円程度です。私も2年目の作成に入っています。

確かに準備が大変ですが、そのときは「自分が生きている間に準備しても大変なのだから、遺族が行えばさらに困難になる」と思ってください。家族への愛を意識すれば意欲的に取り組めるのではないでしょうか。経営者は「自分の死後にも責任を取る」という真摯な心構えをするべきだと思います。(了)