これからの時代に主役となるであろうNPO法人についてお伝えします。
公平なシステムを持つNPO法人
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?
NPO法人についてです。前回ご紹介した神田昌典さんの著書にも「2020年ごろ新しい価値観に基づいた新産業が生まれ、その中で主役になるものの一つがNPO法人である」という主旨の指摘があります。私は四つのNPO法人を所有しており、その経験からも神田さんの意見に同感しています。
―NPO法人は既にかなりの数があると聞きますが?
その通りです。しかしながらNPO法人の本質を理解できている人は少ないのではないでしょうか。そもそもNPOは(Nonprofit Organization)の略。Profitは「分配」を意味します。
いまだに勘違いしている人もいるようですが、NPO法人が利益を上げることについてはまったく問題ありません。もちろん税金を支払う義務もあります。ただし決定的に違うのが「利益を分配できない」こと。これがどれほどの効果があるのかについてお話ししましょう。
NPO法人には「理事会」と「社員総会」があり、それぞれ株式会社の「取締役会」と「株主総会」に相当します。経営は理事会によって行われ、理事は本業を持っている人が多いです。
そしてNPO法人には「理事全体の3分の1の人数しか役員報酬を受け取ることができない」という非常にユニークな規制があります。しかも役員報酬額はすべて公開されます。
―NPO法人の役員報酬について、具体的に説明していただけますか?
例えばあるNPO法人が1億円の利益を出したとします。もしそのNPO法人の理事が6人であれば、その3分の1......つまり2人の理事が役員報酬をもらえます(年間600万円前後)。そして残り4人の理事は現場での働きに応じた給与のみ受け取ります。
―NPO法人では、理事が特別扱いされないのですね
理事が常勤で働いていればそれに応じた給与をもらえますが、理事会に参加するだけなら日当程度です。NPO法人はたとえ1億円の利益を出しても、役員報酬にはかなり制限がある。これがNPOの「Nonprofit」の意味するところです。
2000年以降、株式会社の社員の給与は減少していますが、役員報酬の総額は増大しています。その点NPO法人は実によくできた仕組みだと思います。
だからこそ営利企業が着手しない利益率の低い事業を展開したり、同業他社よりも社員の待遇を厚くしたりすることが可能なのです。
税制面でも優遇されるNPO法人
―その他にもNPO法人特有のメリットはありますか?
助成金を有効に利用できることです。例えば営利企業が助成金を受け取ると、益金に算入され課税対象となります。そこで圧縮記帳という経理上の処理をし、税負担を軽減するのです。しかしこれも税金の繰り越しに過ぎません。
一方NPO法人が固定資産取得のために交付を受けた補助金・助成金は、その固定資産が収益事業用に供される場合でも益金に算入されません。つまり圧縮記帳をする必要がないのです。
しかも減価償却は固定資産の実際の取得価格をもとに計算されるため、さらに節税効果があります。これは二重に補助金を受け取っているようなものです。
―課税についてかなり優遇されていることに驚きました
その通りです。とはいえ固定資産はいずれ老朽化しますし、新たに取得したいときには助成金が出ません。国はそのときのためにお金を残しておけるよう、NPO法人に便宜を図ってくれているのではないでしょうか。
また株式会社は相続時の税金対策などのために株価評価を気にしなければいけません。株式会社を第三者に引き継いでもらうとき、株価評価に応じた金額をもらわなければ贈与になってしまうからです。ところがNPO法人はもともと株価がないのでその必要はありません。
さらにNPO法人は理事が交代する際の金銭的な供与も不要、理事会の承認だけで可能です。お金の心配をすることなく、やる気にあふれた人に事業を継続してもらえるのです。
―改めてNPO法人のメリットをまとめていただけますか?
・営利企業が着手しない利益率の低い事業にチャレンジできる
・社員の待遇を厚くすることができる
・助成金を有効に使える
・株価評価を気にせずに済む
・理事交代の際に金銭的供与は不要。理事会の承認のみ
かつて私は、利益が出るならNPO法人も株式会社も同じようなものだと思っていました。しかし事業規模が拡大し資産が増えてくると、「利益を分配できない」という制限がもたらす効果に驚かされました。
―ますますNPO法人設立に踏み切る人が増えそうですね
本業が順調で、さらなる事業展開を考える場合はぜひNPO法人を検討してみてください。相乗効果が出るはずです。
ただし本業がうまくいっていなかったり、起死回生を狙ったりする場合には不向きだということはお断りしておきます。この点を踏まえたうえで、NPO法人を活用して新しい時代を担っていただきたいと思います。(了)