死線を越えた著者の迫力が伝わってくるという本をご紹介します。
新たな歴史サイクルの胎動
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?
今回は神田昌典さんの『これから10年、活躍できる人の条件』(PHP研究所)という本を紹介したいと思います。
神田さんは2010年に悪性黒色腫(皮膚がん)の告知を受け、症状はリンパ節転移を認める5年生存率50パーセントのステージⅢでした。神田さんは淡々と文章をつづっていますが、相当な葛藤があったと思います。幸い2011年に「最良の状態で決着」し、健康を取り戻されています。
以前は神田さんの著書はあまり好きになれなかったのですが、「死」を乗り越えた経験をもとに書かれた本書は迫力があり、感銘を受けました。
―どのような内容なのでしょうか?
「70年周期説」をご存じでしょうか? これは70年ごとに歴史的大事件が起こるという説で、神田さんも2015年ごろに明治維新、太平洋戦争に匹敵する新しい歴史サイクルが始まる可能性があると指摘しています。そこで神田さんが対比している事例を表にしました。
【社会的事象】 【70年後】
1931年 満州事変 |
2001年 アメリカ同時多発テロ |
1936年 2・26事件 |
2006年 ライブドア事件 |
1940年 大政翼賛会 |
2009年 民主党政権誕生 |
1941年 太平洋戦争勃発 |
2011年 東日本大震災 |
1942年 ミッドウェー海戦(戦局の転換) |
2012年 国家財政、さらに深刻化 |
1943年 学徒出陣 |
2013年 国際金融市場破たん |
1944年 学童疎開 |
2014年 地方への移住急増 |
1945年 原爆投下、終戦、財閥解体 |
2015年 東京直下型大震災、大企業相次ぐ破たん |
1946年 金融緊急措置令(新円切り替え) |
2016年 インフレ |
1950年 朝鮮特需 |
2020年 新産業の芽 |
若干こじつけのように感じるものもあるかもしれませんが、「日本はこのままではいけない」「価値観が変化している」と危機感を抱いている人は私の周りでも増えています。
―「価値観が変わる」とは具体的にどのようなことなのでしょうか?
例えば現在94歳の私の祖母と昔話をすると、「若い頃は軍人さんとの結婚にあこがれていた」と言います。現代の若者からすれば違和感を覚えることでしょう。まさに価値観が変わった証拠だと思います。
この他にも英雄が戦犯になる、あこがれの職業が変わる、出世することが軽蔑される、などがあります。
―東日本大震災も価値観の変化を促す出来事でしたね
価値観が変わるときは想定外のことが起こります。今でも日本列島はひんぱんに地震があり、都市直下型地震も危惧されています。もはや何も起こらないと考えるほうに無理があります。これらのことが明治維新や太平洋戦争のような出来事の引き金になるのかもしれません。
しかしながら、私たちは「変わりたいけれども変われない」というジレンマに陥っています。堺屋太一さんも同様の指摘をしていました。神田さんはこのジレンマを以下のように分析しています。
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組織はなぜ変われないか? これは組織人の能力、人間性、政策の問題ではない。単に組織の寿命が末期であるということである。そもそも、新しい組織に作り変えるということは、組織が成立している収益基盤(=権益)を失うこと。組織としては自殺行為となる。
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混乱を生き抜き、2020年へ!
―確かに、既得権益を手放すことは難しいように思います
今のところ医師は高収入の職業とされていますが、医療費が削減されて報酬が下がる可能性もあります。診療を受ける人にとっては朗報ですが、医師や医療に従事する人たちは収益基盤を失うことになります。
もちろん誰も「日本の医療はこのままでいい」とは思っていません。しかし変革のためには大きな痛みを伴うことが予測されるため二の足を踏んでしまうのです。
介護保険の改正も年々増加する要介護者への対応と、医療従事者の待遇改善を同時に推し進めようとしています。そろそろ制度そのものに限界が来ているのではないでしょうか。
―つい深刻な事態を想像してしまいますが......
私たちは一度すべてをリセットしなければ変われないのかもしれません。しかし、神田さんは悲観的になる必要はないと言っています。
例えば2020年ごろには新産業や地域を愛するリーダーが多数生まれ、地域コミュニティが強くなるとしています。そうなれば地震の被害を最小限に食い止めたり、地域の力でさまざまな問題を解決したりできると前向きに考えています。
私もこの考えには賛成で、これからどんなことが起こるかわからないとしても必ず新産業の芽が出てくると思います。私たちは過去に戦争ですべてを失いながらもここまでやってきたのですから、きっとできるはずです。
―2020年に向けて、私たちはどのような取り組みをすべきでしょうか?
当然ながら、それまでに自分のビジネスを潰さないことです。常に最悪を想定し、骨太経営に徹すること。無駄なお金は使わず、固い経営で荒波を乗り越えましょう。そうすれば新しい時代にはばたけると思います。
介護事業といえども、大きな視点で時代を捉える必要があります。その際に本書は非常に役立つはず。ぜひ一度手にとってみてください。(了)