ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。
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インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第75回「平成24年4月からの改正3」

2012年5月15日 22:30

今回の改正で指摘されている「労働法規の遵守」についてお伝えします。

労働法規の遵守と現実
―今回はどんなお話をしていただけるのでしょうか?

「労働法規の遵守」についてです。もともと介護事業を含む社会福祉事業は、他の産業と比べて労働基準法違反の割合が高いと言われていました。

平成20年の労働基準法等違反事業場比率を見ると、社会福祉施設の違反比率は77.5パーセント。全産業の68.5パーセントより9パーセントも高いことがわかります。

そこで今回の介護保険制度改正で次の条文が盛り込まれました。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
次のいずれかに該当する者については介護サービス事業者の指定等をしてはならないものとする。さらに該当するに至った場合は指定の取り消し等ができる。

①労働に関する法律の規定であって政令で定めるものにより罰金刑に処せられ、
その執行を終わるまでの者、又は執行を受けることがなくなるまでの者

②労働保険の保険料の徴収等に関する法律により、納付義務を負う保険料等の
滞納処分を受け、引き続き滞納している者
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

―条文の内容を説明していただけますか?

ごく簡単に言うと、過去に労働基準法に違反して処罰された人が介護サービス事業者の申請をしても許可しないということです。

しかし、違反歴のない人が申請すればいいだけの話ですから、あまり効力はありません(例:社長に違反歴があるのなら、他の社員が申請すればよい)。正直なところ、どうしてこんなことをもったいぶって言うのかと驚きました。

それに罰金刑を受けるのは是正勧告を再三無視するなどの悪質なケースで、介護事業においてはごく少数。残念ながらあまり影響力はないと思われます。

とはいえ、この条文の通達に伴って監督官庁による労働法規遵守の指導・監査が増えることは間違いないでしょう。

―介護事業所は監査対策を練る必要がありますね

もともと介護業界は県による定期的な監査が多く、書類の準備に追われることもしばしばです。

今後さらに労働法規遵守の指導・監査が増えるとなると、介護事業者は一体誰のために仕事をするのかという疑問を抱いてしまいます。

また、厚生労働省は「組織化された企業レベルの事業所」と「家業程度の小規模な事業所」のどちらに介護を任せたいのか判然としないことも混乱の一因ではないでしょうか。

―介護医療の現場を知る立場から、長谷川さんはどのようにお考えですか?

どちらかというと「家業程度の事業所」は融通が利くと思います。例えば要介護者からどうしても温泉旅行に行きたいという要望があったときは、訪問看護師が同行して無償で入浴の介助をすることができます。

しかし、これを看護師に強制したりエスカレートさせたりすれば労働法規に違反する恐れがあります。

一方「組織化された企業レベルの事業所」はあまり融通が利かないかわりに労働法規をきちんと守る傾向があります。今のところ私も答えが出せないでいます。

厚労省の意図とは何か
―どうやら厚労省と介護医療の現場には隔たりがあるようです

厚労省が労働法規の遵守を通達するのは介護業界で働く人々の労働条件をよくするためですが、本当だろうかと疑ってしまうこともあります。その一例が今回改正された通所介護(デイサービス)のサービス時間区分です。

もともと通所介護のサービス時間区分には【3~4時間】【4~6時間】【6~8時間】があり、多くの事業所のサービス時間区分は【6~8時間】。サービス提供時間の全国平均は6時間22分でした。なぜ6時間22分かというと、準備や後片づけを入れるとちょうど労働時間いっぱいの8時間になるからです。

ところが厚労省は今回の改正でサービス時間区分を【3~5時間】【5~7時間】【7~9時間】に変更してしまいました。こうなると6時間22分のサービス提供では一つ下の【5~7時間】と見なされるため、売り上げが約15パーセント減ることになります。

―赤字に陥る事業所が続出するのではありませんか?

その通りです。厚労省の調査でも7~8割の事業所がサービス提供時間を7時間にしたという結果が出ています。つまり今回の改正のために残業が増えているのです。人員を増やす必要に迫られているところもあるでしょう。

通所介護一つとってもこのありさまです。厚労省は介護事業に従事する人々の給与並びに労働条件を悪化させたと言わざるを得ません。

―厚労省はなぜこのような改正を行ったのでしょうか?

・介護医療の現場と連携して計画していない
・財源が苦しく、なんとか報酬を減らすために厳しい条件を提示した

この2点だと思います。

それゆえに労働条件を悪化させておきながら労働法規の遵守を求める矛盾をはらんだものになっています。

―介護事業者はどのような心構えでいればいいでしょうか?

みなさんに平成24年4月からの改正の概要を理解していただくために、これまで3回続けてお話ししてきました。

ここではあえて数々の問題点を指摘しましたが、度重なる改正は介護事業に従事する以上避けられないこと。

だからこそ全員で知恵を出し合い、一丸となって頑張っていく前向きな気持ちが大切だと思います。(了)