ライフドクター長谷川嘉哉の転ばぬ先の知恵(旧:介護事業の知的創造コンサルティング)

ビジネス、勉強、マネープラン、介護、ライフワークバランス……
認知症専門医であり、経営者でもある長谷川嘉哉が人生を10倍豊かにする知恵をお届けします。

インタビュアー/ポッドキャストプロデューサー:早川洋平(キクタス) 制作協力/和金HAJIME

第74回「平成24年4月からの改正2」

2012年5月 8日 22:30

改正された「介護職員の医療行為」についてお伝えします。

ヘルパーに禁じられている医療行為
―前回に引き続き平成24年4月からの改正についてお話しいただけますか?

今回は介護職員の医療行為について解説したいと思います。
その前に「医療行為」とはどんなことかご存じですか? 実は我々医師もきちんと考えたことがないかもしれません。

厚生労働省によれば、浣腸、摘便、痰の吸引、酸素吸入の準備、点滴、人工肛門の管理、注射などが医療行為とされています。

意外なのは湿布薬の貼り付け、軟膏の塗布、目薬を差す、つめを切る、床ずれのガーゼ交換、座薬、血圧の計測も含まれていることです。

介護職員はあくまで介護を担当するとして、医療行為は禁止されています。しかし実際には利用者やその家族から依頼され、引き受けてしまうこともしばしばです。

もちろん利用者や家族はこれらが医療行為に当たるという認識はありません。また医師や看護師も「これぐらいなら大丈夫」と介護職員に医療行為の一部を任せがちです。正直なところ、いつか事故が起きるのではないかと懸念していました。

―利用者のために、早急な改正が求められますね

その通りです。ところが国はなかなか重い腰を上げませんでした。なぜなら「これは医療行為に当たらず、ヘルパーが行っても問題ありません」と通達したあとに事故が起これば責任を問われてしまうからです。そのため今回は「よく厚労省が動いたな......」という印象を受けました。

さてこのたびの改正で、条件付きではありますが以下の10項目がホームヘルパーなどの介護職員が行ってもよいこと(=医療行為に該当しないこと)として各都道府県に通達されました。

1体温計による体温計測
2血圧測定器による血圧測定
3血液中の酸素濃度を測るパルスオキシメータの装着
4軽い切り傷、擦り傷、やけどなど専門的な判断や技術を必要としない程度の処置(汚物で汚れたガーゼの交換を含む)
5軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く)
6湿布の貼り付け
7目薬の点眼
8内用薬の内服(舌下錠の使用も含む)
9坐薬の挿入
10鼻腔粘膜への薬剤噴霧の介助

いずれも当たり前の行為ですが、医師や看護師が不足している現状では非常にありがたい指針です。

厚労省の改正はビジネスチャンス!
―医療行為を必要とする人が増えているにも関わらず、入院できる病院が減っていることも気になります

やはり介護事業所が受け皿になっていくでしょう。それに伴って経営者は視点を変える必要があります。

今までは「医療行為はできない」と一方的に断ったり退所を促したりすることもありましたが、それでは時代に逆行することになります。

もちろん禁止されていることまで行う必要はありませんが、厚労省の改正に従って介護職員が行ってもよいことは積極的に取り組むべきだと思います。きちんと研修を受けさせたうえで医療度の高い人にも対応できると明言すれば、新たなビジネスチャンスにつながるはずです。

―医療行為が許可されている要介護者の家族の協力も不可欠ですね

在宅医療の現場でも要介護者の家族に点滴の抜針や痰の吸引方法を指導しています。最初は手つきがおぼつかなくても、だんだん上達していきます。

とはいえ知識や経験が豊富なヘルパーですら医療行為が禁止されている現行制度には首を傾げてしまいます。限りある医療介護資源を有効に活用するためにも、介護職員に業務を分担していくことが必要ではないでしょうか。

今回の改正では明確にされませんでしたが、特定の疾患に関しては医師の指示と家族の同意を得たうえでヘルパーが痰を吸引することも許可されています。

これからも介護職員が行えることは増えていくでしょう。今は焦らずに社会的な同意を形成していくことが大事です。今回の改正は理想の介護を実現する第一歩として評価できると思います。(了)